第2話

第2話
495
2019/01/25 15:41
【昼休み】
【教室】
さくら
さくら
(昨日の冥《めい》くん、
どうしちゃったんだろう……)
さくら
さくら
(気になって執筆が進まなかった……)
あたしは窓際の席に、目を向けた。
冥
……
さくら
さくら
(やっぱり今日もひとりで食べてる)
さくら
さくら
(ほんとに陰キャだよね)
さくら
さくら
(中学のころの陽キャな冥くん)
さくら
さくら
(今の、陰キャな冥くん)
さくら
さくら
(どっちがほんとの冥くんなの?)
女子
女子
……ら
女子
女子
……くら
女子
女子
さくらったら!
さくら
さくら
さくら
さくら
な、なに?
女子
女子
なにじゃないよ、もうっ
女子
女子
今日のさくら、ずっとぼーっとしてて
女子
女子
おかしいよ?
さくら
さくら
ごめん
女子
女子
五十里《いがさと》なんて
見つめちゃってさ
さくら
さくら
え?
女子
女子
同中なんだっけ
女子
女子
まさか……
女子
女子
好き、とかじゃないよね?
さくら
さくら
ち、違うよ!
女子
女子
やめといたほうがいいよ、さくら
女子
女子
五十里って陰キャじゃん
女子
女子
素材は悪くないけど、あれはないって
さくら
さくら
……っ
さくら
さくら
冥くんのこと、なにも知らないくせに……
さくら
さくら
悪く言わないで!!
女子
女子
さくらっ?
さくら
さくら
冥くんほんとは
すごく、カッコいいんだよ!
さくら
さくら
中学のときあたし、
ずっと憧れてて……!
女子
女子
……さくら
女子
女子
みんなが見てる
さくら
さくら
はっ
周りを見渡すと
クラスメイトたちが昼ご飯を食べる手を止めて、
大きな声をあげたあたしに、注目していた。
さくら
さくら
そ、その……っ
さくら
さくら
今のは中学のころの話で!
さくら
さくら
昔の冥くんは陽むぐっ
女子
女子
五十里!?
クラスの女子たちが悲鳴をあげる。
あたしの背後から手を回し、
口を塞いだのは――……
冥くんだった。
冥
……うるさい
さくら
さくら
え?
冥
メシ食うときくらい、静かにしろよな
冥
……あんたも
さくら
さくら
あ、あたし……
さくら
さくら
(って近!)
さくら
さくら
(顔を寄せないで……)
冥
余計なことを言うなよ?
冥
……『ちえり先生』
さくら
さくら
……!!
冥くんは声をひそめて言った。
そしてようやく、あたしの口を解放する。
女子
女子
え? なに?
女子
女子
ふたりって付き合ってるの?
さくら
さくら
え?
さくら
さくら
ち、ちがっ
冥
……
冥
好きなように想像すれば
さくら
さくら
ちょ……っ
冥くんはもうなにも言わず、自分の席へ戻っていった。
あたしは……
さくら
さくら
いや、ち、
さくら
さくら
ちがうから……っ
慌てて言い訳を始めたけれど……。
女子
女子
まぁ、いいんじゃない
女子
女子
今まで知らなかったけど、
五十里もけっこう強引系っていうか」
女子
女子
イケてるとこ、あるじゃん
さくら
さくら
う……
さくら
さくら
(たしかに、どきどきしちゃった……)
さくら
さくら
(でも)
さくら
さくら
(高校ではずっと
陰キャでやってきたくせに……)
さくら
さくら
(急に今みたいなこととか)
さくら
さくら
(昨日の、こととか――)
あたしは足元に視線を落とした。
さくら
さくら
(どういうつもりなの)
さくら
さくら
(冥くん……)
【放課後】
【帰り道】
さくら
さくら
…………
冥
…………
さくら
さくら
…………
さくら
さくら
……っ
さくら
さくら
ついてこないで、ってば!
冥
俺もこっちに用があるんだよ
さくら
さくら
~~~っ
さくら
さくら
(このままじゃ家に着いちゃうじゃん)
さくら
さくら
あたしの家を特定してどうすんの?
さくら
さくら
『桜木ちえり』の自宅ですって
ネットで曝すとか?
冥
そんなんしないって
さくら
さくら
じゃあ、どうして……
冥
あんたに訊きたいことがあるんだ
さくら
さくら
え?
冥
あんたさ……
冥
俺が好きなの?
さくら
さくら
!!!
冥くんが足を進めて、あたしに近づいてくる。
冥
なぁ
冥
昔の俺と今の俺、
冥
……どっちが好き?
さくら
さくら
さくら
さくら
(このセリフ)
さくら
さくら
(やっぱりあたしの小説の)
『桜木ちえり』が執筆中の小説に登場する、
ヒロインの相手役――……
彼は記憶喪失で、あるときヒロインにこう、尋ねるのだ。
――「昔の俺と今の俺、どっちが好き?」
と……。
さくら
さくら
そのセリフ……
さくら
さくら
どうして知ってるの
さくら
さくら
小説、まだ書きかけで
本になってないのに
冥
さあ?
冥
でもこのキャラ、俺がモデルだよな?
さくら
さくら
!!
冥
俺と身長が同じだし……誕生日だって
冥
なぁ、あんた……
冥
小説のヒロインみたいに、俺に……
さくら
さくら
っ、なに……
いつの間にか、冥くんは
あたしの目の前まで来ていて。
さくら
さくら
!!!!
さくら
さくら
んん……っ
長い腕を伸ばして、あたしを引き寄せ、
そして、
強引にくちづけた。
さくら
さくら
~~~~っっ!
さくら
さくら
(キス……してる?)
さくら
さくら
(あたし……冥くんと)
さくら
さくら
(キスしてる――!?)
さくら
さくら
……は……っ
やがて、くちびるを離した冥くんは。
冥
あんたも小説のヒロインみたいに……
冥
俺に、こうされたかった?
さくら
さくら
……っ!
さくら
さくら
あたしは……
冥
……俺はずっとこうしたかった
冥
あんたは、陰キャの俺には
興味はないんだと思って諦めてたけど……
冥
でも違った
冥
あんたの小説を読んで、わかったよ
さくら
さくら
……冥、くん……
さくら
さくら
(あたしは)
さくら
さくら
(中学のとき冥くんに
ずっと憧れてて……)
さくら
さくら
(でも)
さくら
さくら
(手が届かなくて)
冥
俺は、ずっとあんたが……
あんたのことが
冥
好きだったんだ……
真摯な瞳で見つめられて、あたしはついに。
さくら
さくら
……好き
さくら
さくら
あたしも、冥くんのことが
ずっと好きだった
秘めていた気持ちを告げる。
さくら
さくら
ううん
さくら
さくら
今も、好き……
冥
……
あたしの告白を聞いた冥くんは。
さくら
さくら
あ……
そっと、あたしを抱き寄せた。
それから。
さくら
さくら
(あ……また……)
さくら
さくら
(……キス……)
今度は。
これ以上ないほどにやさしく、
あたしにくちづけてくれたのだった。

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