私は大量の資料とプリントやノート、台本を
抱えて放課後の教室に残っていた。
「早く終わらせないと……」
焦ってもほとんど終わっていない
山積みの物達にため息をつきながら、
美術部の子に頼まれたポスターに取り掛かろうとしていた。
絵の具や色鉛筆、筆などの画材を用意して、
ポスター用の模造紙を広げる。
広げるだけでも一苦労だ。
____あれ?
「何で……終わってるの?」
まだ鉛筆の線の下書きしか無いはずの
模造紙には綺麗に色がつけられていて、
提出しても何の問題もない作品に仕上がっていた。
「ごめんね?勝手に描いちゃって」
呆然としている私の背後から、
柔らかくて落ち着いた声がかかる。
「それに色つけたの、私だよ」
声の主は、ほとんど話したことがなく、なにか私に頼んだこともない書道部の女の子だった。
私が何事かと分からず頭が混乱しているうちに彼女は続ける。
「相原さん、凄く大変そうだったから。いろんな仕事任されて、部活の手伝いとかもしてて。私も手伝いたかったんだ
____大丈夫って言ってたけど、大丈夫じゃなかったでしょ? 」
大丈夫……じゃない……?
そこで思考が止まる。
大丈夫じゃなくなんかない。
私は大丈夫。
「あ、あの……」
彼女はふわふわした髪をなびかせながら私の声に耳を傾ける。
「私は……大丈夫…………」
大丈夫。
私は要領がよくて、苦手なものなんてないから。
大丈夫。
「うーん、少なくとも
大丈夫じゃなさそうな顔、してるよ?
無理しなくたっていいんだよ」
彼女は微笑みながら言う。
「......っ...」
彼女の声に安心したのか、
私は泣いていた。
「えっどうしたの!?落ち着いて!?」
「......っ......ありがとう......」
しゃくりごえになりながら彼女にお礼を言う
私は、全然大丈夫じゃなかったんだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。