僕の名前は相川真冬。
一応、高校二年生に当たる年齢だけど、少し事情があり、学校には通っていない。
そして今は、飲み物を切らしていたため、近くのショッピングモールに買い出しに来ていた。
そらるさんがここに来てるなんて珍しい。
引きこもりのくせに。
……まあ、僕も人の事言えないけど。
僕に気が付いたらしいそらるさんは、軽く手をあげて挨拶を返してくる。
素っ気なく塩っぽい対応だが、そらるさんにとっては、これがいつもの事なのだ。
ふと、先程から気になっている人物へと視線を移す。
そらるさんの横に立つ少女は、誰が見ても美しいと評するであろう見た目をしていた。
長いストレートロングの黒髪に、金色に輝く瞳。
そして、何故か少しだけ濡れている制服に、目の前の少女のものにしてはかなり大きめのパーカー。
何もかもが、美しく、なにより儚く見えてしまう。
俺は、少女に声をかけられるまでボーッとしていた。
正確には、少女に見惚れていたのである。
さきほどから、心臓がうるさいくらいに波打っている。
この気持ちは一体、何なんだろうか……?
彼方……
そらるさんの本名、久しぶりに聞いたかも。
皆、そらるさんの事本名で呼ばないし。
この子、そらるさんの事を本名で呼んでるのか。
なんだか、すごくモヤモヤする……
少女は、控えめに挨拶を返してくれた。
昔の僕に少しだけ似ているのは気のせいだろうか?
でも、こんな少女がそらるさんと一緒に出歩いているって事は、まさか……
そらるさん、誘拐したんだろうか?
だって、この時間帯(朝)に少しだけ服が濡れている少女を連れて歩いているんだよ?
誰だって誘拐を疑うはずだ。
学校の後輩でも、誘拐したなら同じだ。
誘拐の有無に、年齢なんて関係ないんだから。
でも、そらるさんが誘拐かぁ……
まーしぃとかならしそうなんだけどな……(失礼)
へぇ、そらるさんの家に……
……って、は!?
そらるさんの家に、この子が住んでる!?
本当に誘拐したんですか、そらるさん!?
え、すごく嫌な気持ち……
何なの、さっきから……
……もしかして僕、恋に落ちちゃった?
こんなこと、今まで一度もなかったのに……
……って、つい口に出しちゃったよ!
はぁ、何言ってんだろ、僕……
でも、決めたからには必ず貫き通す。
僕は、目の前の少女に恋に落ちた。
そらるさんには、何があっても絶対渡さない。
僕はその決意を悟られないように、出来るだけ感情を押し殺して会話を続けた。
僕は、すぐにこの場から立ち去ることにした。
ずっとここにいたら、気が狂ってしまいそうだから。
一瞬そらるさんの視線が鋭くなったのは、きっと気のせいではないだろう。
きっと、そらるさんも目の前の少女が好きなのだろう。
そして、僕のこの気持ちもバレているのだろう。
僕はその視線をライバルとしての挑戦状と受け取り、返すように鋭い視線を送り返した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。