弘羽が部屋から出ていって数分が経とうとしたその時、暇を持て余したことに痺れを切らした五条が口を開く。
あなたがそう言うと剝磨はそっと箱を床に下ろす。剝磨が身を屈めると口元を隠す狐の面に取り付けられた鈴がシャラシャラと美しい音を奏でる。
そんな二人のやり取りに五条は、ん?ん〜?ちょっと待て…さっきその子、コンって鳴かなかった?聞き間違いかなぁ?と困惑する。てゆーか頭撫でられてるの羨ましいッ!
それは置いといて言葉を話せるのにあえて話さないようにしているところを見ていると言葉に呪力をのせる系の術式を持っているのかもしれないと考える。
ほぼ確信に近い問いをかければあなたは剝磨を撫でる手を止め答えた。
あなたの言葉に五条は息を飲む。簡単に言えばこの呪霊は人ではなく物…空間や時、生命では無いものを自在に操れるということだ。ふむふむと考え込む五条を他所にあなたは続けて口を開く。
その言葉に五条の口は開いたまま塞がらない。
やっと声にだせたのは語彙力がないギリギリ言葉と呼べるものだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
五条が剝磨と意思疎通を試みていると襖が開けられ書物で顔の隠れた弘羽が部屋に戻ってきた。
五条は弘羽の手から目の前の机に置かれた少し古いおびただしい量の書物を覗き込む。
そう言って弘羽が手に取った書物は今にも破けてしまいそうなものだった。
それをあなたが慌てて丁寧に扱うようにと念を押しているところから見ると本当に価値のあるものらしい。
五条は顬に冷や汗が伝うのを感じ取る。
弘羽に確認すると目の前に並べられた大量の分厚い書物を一瞥する。
明るく言い放った弘羽は、屋敷の掃除とおやつと夕飯の準備をしに部屋を出ていってしまった。
救いを求めるように剝磨を見れば剝磨は目を細めこくこくと頷いた。
何この子優しッ!と隣のあなたに視線を向ける。あなたは申し訳なさそうに眉を下げていた。
ニヤニヤと笑みを浮かべあなたの顔を覗き込みながら言ってやればあなたはムッとした顔をするが五条に向かってありがとう、と礼を述べると作業を始めてしまった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
剝磨の能力について
狗巻棘君のような相手の動きを止めたり、命令したりすることは出来ませんが、少し先の未来を弄ることができるみたいな感じです。
例えば、天気予報は晴れか…花に水やるの面倒臭いな…って時にそろぼち雨降る的なことを囁けば雨が降ります。って感じです。
術式の使用を制限したりもできます。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。