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第2話

h.s
34
2021/01/31 00:06










「 今日、誕生日だよね 」

「 ごめんね、プレゼント買えなかった、」




































1月29日23:40

彼が帰ってきた。

ただいま、なんて、誰もいないのに。

車のキーを玄関に置いてこちらへ向かってくる



























「 はぁ、」

「 … 」


























何かを考えるようにソファに身を沈める

いつもなら、きっと私が

































「 …ねえあなた、今日誕生日だよ? 」

「 ねえ…っ 」


































泣かないで

泣かないでよ、紫耀

もう3年も前の話なのに

忘れてよ、私の事なんて

もう忘れて?

それで、

…幸せになってほしい




























「 お誕生日おめでとう、紫耀 」













_____________________________________________


sho side













仕事終わり

疲れきった俺の身体

静かな部屋に微かに香るあの匂い

…あなたの匂い

多分、この部屋には

もうそんな匂いなんて消えてるのに

鼻の奥に香るこの香りは

俺の思い出なのか、

それとも、今年も今日は

今日だけは

俺の傍にいてくれているのか



























「 …ねえあなた、今日誕生日だよ? 」





















いつもなら、あなたが、

『 お誕生日おめでとう、紫耀 』

って、一番最後に。

ああ、もうすぐそんな時間だな

そしてもうすぐ

この匂いは消える

消えて、また来年、微かに香る

もうあなたはいないのに

俺の隣にはあなたがいる

いや、本当にいる訳じゃなくて

ただなんとなく、そう、なんとなく

いるんだなって、感じる

声も聞こえないし

顔だって見れないけど

そんな空気ごと

俺は抱きしめたいと思った









































いつの間にか、寝ていたらしい

俺の身体は、3年前の記憶を辿るように

夢を見せてくれた

























「 …う、紫耀!! 」


「 うわっ!びびった~ 」

「 まじ急に呼ぶの禁止!! 」


「 いや何回も呼んだからね? 」


「 んで、どしたの? 」


「 今日はなんの日でしょーか! 」

「 ぶっぶー!時間切れ!! 」


「 答えさせる気ないじゃん 」


「 ふふ、正解は~!紫耀の誕生日!! 」


「 うん、そうだね笑 」


「 あなたちゃんのプレゼント欲しい人手あげて! 」


「 はいはいはいっ!俺欲しい!! 」


「 そんなしょーくんには、特別にっ!! 」


「 …うおっ、急にぎゅーしてくんじゃん笑 」


「 お誕生日の日はぎゅーする約束だよ? 」


「 そんな約束したっけな、笑 」


「 したの!! 」


「 はいはい笑 」


「 …ねえ紫耀、」


「 ん? 」


「 お誕生日おめでとう、大好きだよ 」


「 …あーもうほんと無理可愛い 」


「 ふふ、ケーキ食べよっ! 」


「 そうだね、食べよっか 」






















































こんな会話をしたのは、ちょうど3年前の今日だったよな

毎年、お互いの誕生日はぎゅーってする約束

もう2回も破っちゃったね

今年も、出来そうにないなぁ
































「 お誕生日おめでとう、紫耀 」

そんな声が、聞こえた気がした

その瞬間、抱きしめられる感覚もした

ふわりと甘く香る、あなたの匂い

俺は、あなたが今も確かに存在する

そう悟った

ほんと、不思議だなぁ

いないのに、どこにもいないのに

手を伸ばせば触れる感覚

顔を近づければ、瞳が潤むあなたが目の前にいる

そんな気がして、それと同時に

俺の身体まで落ち着いていく

あの日、もっと早く貴方の元へ向かっていれば

今日も、明日も、その先もずっと

俺の傍にいてくれたのかな






































「 大好きだよ、あなた 」


「 大好きだよ、紫耀 」







































そんな会話が、俺の生きる糧になる

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