「 今日、誕生日だよね 」
「 ごめんね、プレゼント買えなかった、」
1月29日23:40
彼が帰ってきた。
ただいま、なんて、誰もいないのに。
車のキーを玄関に置いてこちらへ向かってくる
「 はぁ、」
「 … 」
何かを考えるようにソファに身を沈める
いつもなら、きっと私が
「 …ねえあなた、今日誕生日だよ? 」
「 ねえ…っ 」
泣かないで
泣かないでよ、紫耀
もう3年も前の話なのに
忘れてよ、私の事なんて
もう忘れて?
それで、
…幸せになってほしい
「 お誕生日おめでとう、紫耀 」
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sho side
仕事終わり
疲れきった俺の身体
静かな部屋に微かに香るあの匂い
…あなたの匂い
多分、この部屋には
もうそんな匂いなんて消えてるのに
鼻の奥に香るこの香りは
俺の思い出なのか、
それとも、今年も今日は
今日だけは
俺の傍にいてくれているのか
「 …ねえあなた、今日誕生日だよ? 」
いつもなら、あなたが、
『 お誕生日おめでとう、紫耀 』
って、一番最後に。
ああ、もうすぐそんな時間だな
そしてもうすぐ
この匂いは消える
消えて、また来年、微かに香る
もうあなたはいないのに
俺の隣にはあなたがいる
いや、本当にいる訳じゃなくて
ただなんとなく、そう、なんとなく
いるんだなって、感じる
声も聞こえないし
顔だって見れないけど
そんな空気ごと
俺は抱きしめたいと思った
いつの間にか、寝ていたらしい
俺の身体は、3年前の記憶を辿るように
夢を見せてくれた
「 …う、紫耀!! 」
「 うわっ!びびった~ 」
「 まじ急に呼ぶの禁止!! 」
「 いや何回も呼んだからね? 」
「 んで、どしたの? 」
「 今日はなんの日でしょーか! 」
「 ぶっぶー!時間切れ!! 」
「 答えさせる気ないじゃん 」
「 ふふ、正解は~!紫耀の誕生日!! 」
「 うん、そうだね笑 」
「 あなたちゃんのプレゼント欲しい人手あげて! 」
「 はいはいはいっ!俺欲しい!! 」
「 そんなしょーくんには、特別にっ!! 」
「 …うおっ、急にぎゅーしてくんじゃん笑 」
「 お誕生日の日はぎゅーする約束だよ? 」
「 そんな約束したっけな、笑 」
「 したの!! 」
「 はいはい笑 」
「 …ねえ紫耀、」
「 ん? 」
「 お誕生日おめでとう、大好きだよ 」
「 …あーもうほんと無理可愛い 」
「 ふふ、ケーキ食べよっ! 」
「 そうだね、食べよっか 」
こんな会話をしたのは、ちょうど3年前の今日だったよな
毎年、お互いの誕生日はぎゅーってする約束
もう2回も破っちゃったね
今年も、出来そうにないなぁ
「 お誕生日おめでとう、紫耀 」
そんな声が、聞こえた気がした
その瞬間、抱きしめられる感覚もした
ふわりと甘く香る、あなたの匂い
俺は、あなたが今も確かに存在する
そう悟った
ほんと、不思議だなぁ
いないのに、どこにもいないのに
手を伸ばせば触れる感覚
顔を近づければ、瞳が潤むあなたが目の前にいる
そんな気がして、それと同時に
俺の身体まで落ち着いていく
あの日、もっと早く貴方の元へ向かっていれば
今日も、明日も、その先もずっと
俺の傍にいてくれたのかな
「 大好きだよ、あなた 」
「 大好きだよ、紫耀 」
そんな会話が、俺の生きる糧になる
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。