「どうぞ」
篠塚が依頼人の前にコーヒーを置くと机が僅かに軋んだ
見た目は立派なアンティーク調なのだが、その実ただのボロい机だ
依頼人は細身の女性で遠慮がちにコーヒーに口をつけると「あちっ」と声を漏らしていた。
漸く寺西の準備が終わり仰々しく椅子に腰をかけると女性にハンカチを渡していた
それを見ながら篠塚は
こいつ何しても様になるな……
とメモを用意しながらふける。
依頼人がハンカチに両手を重ねて口を拭く。
それを見て寺西が口を開く
「本日はどのようなご依頼で?」
依頼人は手を胸の前で合わせると2、3息を吐く。
緊張をほぐすためだろう。
「愛猫のミルクちゃんを探して欲しいんです」
そう言って写真を出す。そこには毛並みを整えられた長毛の猫が写っていた。
写真を見ると随分と大切にされているのが伺える
写真の中では首輪に着いた黒いブローチが目に付いた
「はい、お写真失礼します。ミルクちゃんは写真に写ってない部分で特徴はありますか?」
寺西は事も無げに写真を受け取りコピーする。
コピー機は令和とは思えない音を立てて紙を吐き出す。
治さないとと思うのだがいかんせん金がない
「ミルクちゃんはブラックベールが好きなんです」
丁重に写真をお返しすると依頼人は両手で受け取り祈るように胸にうずめる。
その様子を見て寺西が腰を上げた。
そのまま、依頼人に目線を合わせると
「大丈夫です。我々が見つけますから」
人によっては王子にも見える仕草で告げた。
依頼人はぽぅっと寺西をみたまま何度も首を縦に振る
「よろしくお願いします」
依頼人にはスカートを軽く整えて立ち上がると再び頭を下げて帰っていった
「早く探しに行った方がええやろな」
とったメモを見ながら篠塚が事も無げに呟く。
それを聞いた寺西は口角を上げる。それはもう楽しそうに篠塚に問う
「それはなんで?」
篠塚はめんどくさいターンに入ったなぁと思いながらも無視する理由も無いので
「てらも気づいとるやろあの猫に着いてる首輪ブラックダイヤモンドやった」
「おや?気づかなかったよ」
嘘つけや
篠塚はそう思ったが口に出さないことにした。
この部屋の家具ば全て寺西が選んでいる殆どは中古品店で揃えてからリメイクしている。
だが、寺西一つだけ持ち込んだものがある
寺西が愛用しているアンバーチェアだ
あれこそ見た目ボロボロだが残っている革の質感や上品なデザイン、縫い目の処理から有名なブランドのものだろう
あれを愛用している寺西がダイヤモンドに気づかないはずがないのだ
調子乗るので言わないのだが
「さっすが大輝は優秀だなぁ」
「へいへい、急ぐで。猫ボロボロかもしれん」
あの首輪に気づかれればミルクちゃんに手荒い真似をされかねない
2人は手早く準備を整えると開けるのに少々コツのいる扉に手をかける
そのまま街に飛び出せば、両手にチュールと猫じゃらしを装備しながらミルクちゃんの名前を呼ぶ
篠塚が精一杯声をはりあげてミルクちゃんを探していると、寺西から静止がかかる
「なんなん?てらも真面目にやってえや」
篠塚がムッとしながら寺西を見やる
「んー、なんかさ。ミルクちゃんさんそんな勢いで呼ばれ慣れてないんじゃ無いかなって」
「ん、どういうことや?前回もこうして探したやん」
寺西は軽い調子で言っているが篠塚は納得がいかない
経験則上このやり方で間違いは無いはずなのだが
「いやさぁ、あの猫いい所の子じゃん?お嬢さんも所作から見ても大声で呼んだりしないだろうから、ミルクちゃんビビちゃうんじゃないかなって」
なるほど
こういう所が敵わん
篠塚は態度こそ雑だが寺西に一目置いている
今回も寺西の言うことが正しいのだろう
「という事は行動範囲は広くなさそうやな、帰巣本能でそろそろ家に帰ってるかもしれん」
「流石大輝、俺もそろそろだと思うな」
なにが、さすが大輝や分かっとったくせに
篠塚が一応依頼人に確認しようとスマホを取り出したところで着信がなる
出てみるとこちらの予想通り猫が帰ってきたとの事だ
依頼人は料金を支払うと言うので寺西に変わる
ここから先の流れは読めている
俺たちが見つけていないので料金を受け取らないつもりなんだろう
はぁ、今月のバイト代ちゃんとでるんかな
電話が終わってようなので声をかける
「貰ってないんでやろ、料金」
「大輝は優秀だなぁ、正解!」
「嬉しないわ、ほんまうちの給料どないなっとんねん……」
「大丈夫だって!」
2人はいつも通りぎゃあぎゃあと騒ぎながら帰路に着いた












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。