845年のあの悲劇から約6年経った今、世界はまた以前のような平和を取り戻していた。
壁の穴を塞いだ事による一時的な平和ではない。
人類はまた、巨人から世界を取り戻したのだ。
100年以上もの間巨人に支配されてきた人類だったが、エレンという人類の希望を味方に付けてからの反撃は、瞬く間の出来事のようだった。
本当に、アイツらはよくやってくれたと思う。
そして、コイツ─ペトラも。
あの時巨大樹の森での女型との一戦で、文字通り命懸けでエレンを死守してくれたペトラは、重傷を負いながらも、旧調査兵団特別作戦班の中でただ一人生き残る事ができた。
壁内へ戻りすぐに病院へと運ばれたものの、それから半年以上もの間、眠ったままだったのだ。
そして約2ヶ月前、やっと意識を取り戻した時には─
ペトラは俺の事など、何一つとして覚えてはいなかった。
世界はもう、人類の希望や、それを救ったコイツの事など覚えてはいないだろう。
ましてや、人類最強なんて称えていた俺の事なんて。
記憶を失っていたのはペトラだけではなかったのだ。
コイツらの記憶は消された
…いや、書き換えられた。
─エレンの、巨人の叫びの能力によって。
この半年の間に、様々な事があった。
エレンの硬質化の能力の取得により、新兵器の開発とウォール・マリアの奪還が可能となった人類は、ついに全ての巨人を排除する事に成功する。
いつだかエレンとその馴染み達が話していた、海を見るという夢も、実現する事が叶ったのだ。
だが─
世界は、どこまでも残酷だった。
政府は、巨人やそれに関する出来事を人々の記憶から消し去る事を決定、エレンにそれをさせた上で─
エレンを人類の脅威として、抹消したのだ。
アイツも、俺も。
命を睹して戦っていった兵士達でさえ、用済みとなったら捨てられる、ただ利用されていただけの"駒"だった。
…しかし、そんな真実を知る事も無ければ、この平和になった世界で、笑って生きる事ができる。
エレンは全ての人々がそうなる事を望んで、あの役を引き受けたのかもしれない。
そう、俺さえ耐える事ができれば、もうコイツらに悪夢を見せなくて済むのだ。
アッカーマンの血を引く俺は、記憶改竄の影響を受けない。
エレンもいなくなってしまった今、この世界で一人記憶を持ったまま、孤独に生きていくしかなかった。
だが、巨人にまつわる事以外は、改竄される事はない。
だから俺は、それにどこか期待していたのかもしれない。
コイツなら、もしかしたら俺を覚えているかもしれない、と─…
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。