第2話

駒【リヴァイside】
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2018/09/05 18:05
845年のあの悲劇から約6年経った今、世界はまた以前のような平和を取り戻していた。
壁の穴を塞いだ事による一時的な平和ではない。
人類はまた、巨人から世界を取り戻したのだ。

100年以上もの間巨人に支配されてきた人類だったが、エレンという人類の希望を味方に付けてからの反撃は、瞬く間の出来事のようだった。

本当に、アイツらはよくやってくれたと思う。
そして、コイツ─ペトラも。

あの時巨大樹の森での女型との一戦で、文字通り命懸けでエレンを死守してくれたペトラは、重傷を負いながらも、旧調査兵団特別作戦班の中でただ一人生き残る事ができた。
壁内へ戻りすぐに病院へと運ばれたものの、それから半年以上もの間、眠ったままだったのだ。

そして約2ヶ月前、やっと意識を取り戻した時には─

ペトラは俺の事など、何一つとして覚えてはいなかった。


世界はもう、人類の希望や、それを救ったコイツの事など覚えてはいないだろう。
ましてや、人類最強なんて称えていた俺の事なんて。

記憶を失っていたのはペトラだけではなかったのだ。

コイツらの記憶は消された
…いや、書き換えられた。

─エレンの、巨人の叫びの能力によって。


この半年の間に、様々な事があった。

エレンの硬質化の能力の取得により、新兵器の開発とウォール・マリアの奪還が可能となった人類は、ついに全ての巨人を排除する事に成功する。

いつだかエレンとその馴染み達が話していた、海を見るという夢も、実現する事が叶ったのだ。
だが─

世界は、どこまでも残酷だった。


政府は、巨人やそれに関する出来事を人々の記憶から消し去る事を決定、エレンにそれをさせた上で─
エレンを人類の脅威として、抹消したのだ。

アイツも、俺も。
命を睹して戦っていった兵士達でさえ、用済みとなったら捨てられる、ただ利用されていただけの"駒"だった。


…しかし、そんな真実を知る事も無ければ、この平和になった世界で、笑って生きる事ができる。
エレンは全ての人々がそうなる事を望んで、あの役を引き受けたのかもしれない。

そう、俺さえ耐える事ができれば、もうコイツらに悪夢を見せなくて済むのだ。

アッカーマンの血を引く俺は、記憶改竄の影響を受けない。
エレンもいなくなってしまった今、この世界で一人記憶を持ったまま、孤独に生きていくしかなかった。


だが、巨人にまつわる事以外は、改竄される事はない。

だから俺は、それにどこか期待していたのかもしれない。
コイツなら、もしかしたら俺を覚えているかもしれない、と─…

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