プリ小説

第10話

届け【(9話からの)ペトラside】
革靴で階段を上る音が段々と近付き、私の病室の前で止まる。
だけどその足音の主が部屋に入ってくる事は無く、また病院に静寂が戻った。

その音は、私にはどこか切なく、空っぽに感じて…
泣いていた私の耳には届かなかったのかもしれない。


私は、さっき淹れ直したばかりでまだ温かいその紅茶を持つと、静かにドアの外へと向かった。

本当にリヴァイさんかも分からないのに。
本当に来てくれたのかも分からないのに。

古いドアを隔てただけのその空間へと足を踏み出すのは、何故かとても簡単ではない事のように思えた。


期待を半分も持たずに、ドアを開ける。

だけどそこには、腕組みをして壁に寄り掛かる、リヴァイさんの姿があった。


少し驚いたような目に、何か言いたげな口。

たった数ヶ月前に出会って、たった数十日間見ていなかったというだけの筈なのに…
なんだかとても懐かしく感じて。


本当に来てくれていたのだという驚きと、また会えたのだという喜びと…
同時に、あの時の後悔と。

色々な感情が入り交じって、うまく言葉が出せなくなる。


だけど何とか口を開くと、リヴァイさんに向かって微笑んだ。

「…リヴァイさん、お話があるんです。紅茶でも飲んでいきませんか?」


***

リヴァイさんにティーカップを手渡すと、戸惑いも無く紅茶を口に運ぶ姿を見て、少し安堵した。

紅茶を淹れるのはリヴァイさんほど上手くないから、味が少し不安だったのもあるけれど…
そこまで私は拒絶されていなかったのかななんて、都合の良い考えをせずにはいられなかった。


「…こんな俺を、不気味に思うのも分かる。お前の両親だって、きっと良くは思っていないだろう。
だから… ー俺はもう、ここには来ない。」

それは、もう一度しっかり話をしようと心に決めたと同時に、覚悟していた筈の言葉だった。
なのに…

諦めたくないと思う自分も、まだどこかに存在していて。


「私はもう、例えリヴァイさんとの過去が分からないままだとしても…
今のリヴァイさんの優しさを好きになったんだって、あれから気付いたんです。
リヴァイさんも扉の向こうで… 私の泣き声、聞こえていたんじゃないですか?」


…この、"好き"という言葉を、リヴァイさんはどう捉えたんだろう。

ジャーマンアイリスの花言葉のように、届いてくれたらいいのに。
私にも、届けてくれたらいいのに。


「…さあな。初耳だ。」

少し間が空いて、リヴァイさんが答える。

嘘が下手なんだな、と… あまり知らない筈の彼の性格も、それだけは分かった。
そして、嘘をついてまで相手を気遣う彼の優しさも、改めて。


私は窓際へ行くと、窓を大きく開け放った。

彼を試すつもりが無いという訳ではなかったけれど…


そして、出窓に身を乗り出す。

こうしていると、本当に飛べそうな…
何かを思い出せそうな気がするのだ。

それを今、この瞬間に掴んでみたくなった。


すると突然、リヴァイさんに腕を掴まれた。

少し痛いくらいの、強い力。
だけど少し震えていて…。


驚いてリヴァイさんを見ると、今まで見た事もないような、不安と恐怖に押し潰されてしまいそうな─…
そんな表情でこちらを見ていた。

リヴァイさんでもこんな顔をする事があるんだなと思ってしまう程、リヴァイさんの初めて見る人間らしい表情に、私の方が驚かされてしまう。


「リヴァイさん…?」

そう呼び掛けると、彼はハッとしたようにその表情を崩し、それを隠すように私に背を向けた。
「す、すまない…」

「リヴァイさん!」

私はもう一度呼び掛ける。

「…もう、来てくれないんですか? 二度と、会えないんですか…?」

こんなの、私のわがままだと分かっているけれど。
あと少しだけ…

こんな別れ方、またきっと後悔するから。


「…退院するまでの、あと少しの間だけ来てやる。
さっきみたいに、何しでかすか分かったもんじゃねえからな。」

そう言うリヴァイさんは、あの日と同じように振り向きはしなかったけれど。

その言葉一つで、私の目に映る景色は、その時とはまるで違うように見えた。

「 …! はい!!」

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ニャンコ先生@超低浮上
ニャンコ先生@超低浮上
昔画像投稿の方でも投稿していた進撃の巨人の小説を、手直しを加えつつ書いていこうと思います! ※会話形式の小説は好まないので、普通の小説風な書き方をします。
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