「…リヴァイさん?」
少し考え込んで上の空になっていた俺の顔を、ペトラが心配するように覗き込む。
「どこか具合でも…?」
「…いや、何でもない。」
─この"リヴァイさん"というのも、俺がもう"兵士長"ではないからというよりはただ、俺が何者なのか分からずに、名乗られた名で呼んでいるだけらしかった。
「リヴァイさん、よくお見舞いに来て下さりますし、私が眠っていた時だって、いつも看病して下さっていたと聞いて…
どうか無理しないで下さい。このままだとリヴァイさんまで倒れてしまいます。」
「別に、このくらいどうという事は無い。俺がしたいからやっているだけだ。」
「…どうして、見ず知らずの私にそこまで…」
「前にも言っただろう。俺とお前は戦友だった、と…」
「戦友って… 何の、ですか…?」
「……」
俺は答えなかった。
"兵士としての上司と部下"と言わなかったのも…
自分を思い出して欲しいと願う反面、あの辛い出来事を思い出させたくなかったからだ。
それに、巨人を駆逐する手段にすぎない、"兵士"としての繋がりだけではなかったというのなら─
きっかけなんて与えなくても、いつかは思い出してくれるのではないかと、そんな淡い期待がどこかにあったのだと思う。
俺は持っていた上着を羽織ると、椅子から立ち上がった。
「…とにかく、明日もまた来る。」
少し誤魔化すような口調になって、無意識にペトラから目を逸らす。
すると殺風景な部屋の様子が目に入って、明日は何か花でも持ってこようか、とふと考えた。
実際、兵士という役割を奪われた俺にできる事なんて、それくらいしか無かったのだ。
「あ、ありがとうございます!」
ペトラも、それ以上は追究してくる事も無く、また少し緊張した声になって言う。
俺はその言葉を背に聞くと、何も言わずにその部屋を後にした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。