コンコンとドアをノックする音がして、きっとリヴァイさんだ、と気持ちが高ぶる。
前まではどんな関係かも分からないまま、ただ世話を焼いてくれるぶっきらぼうな人、という印象しか無かった。
けれど、いつの間にか彼の不器用な優しさや人を思いやるその心に、いつまでも甘えたいと思う自分がどこかに存在するようになっていて…
でも、そんな気持ちが邪念となってしまうのか、彼の前ではなぜか緊張してしまう。
「…?」
ベッドの上で体を起こすも、リヴァイさんはなかなか入って来なかった。
不思議に思ってドアを開けると、そこには両手に沢山の本を抱えたリヴァイさんが立っていた。
驚く私の目の前に、彼はその本を差し出す。
「悪いな。両手が塞がっていて、ドアを開けられなかった。」
「わ、こんなに!ありがとうございます!」
急いで本を受け取ると、思ったよりも凄く重くて、ついよろめく。
フラフラと本を運ぶ姿を危なっかしいと思ったのか、リヴァイさんは私から再び本を受け取ると、軽々と机まで運んでしまった。
「す、すみません。」
「いや、病み上がりなのに持たせた俺が悪い。」
見ると、どうりで思い筈で、机の上に積まれた本の中には植物か何かの図鑑があった。
「これ…」
「ああ、それは花の挿絵が多いからな。
本物とまではいかねえが、景色が一色のこの部屋には丁度良いかと思っただけだ。」
ベッドに座って図鑑を開いてみると、確かに沢山の花や草木の絵がページ毎色鮮やかに描かれていた。
その隣には生息地や由来、花言葉までが詳細に書かれている。
「わぁ… 本物みたいに綺麗な絵ですね。あ、このお花…!」
紫色の花びらの、見覚えのある花。
それは、リヴァイさんが持ってきてくれた花だった。
「あのお花、ジャーマンアイリスっていうんですね。この辺に咲く、アヤメの仲間みたいですよ。
花言葉は"焔"とか、"記憶の断片"とか… 色々あるみたいです。」
「…俺達にピッタリだな。」
それを聞いたリヴァイさんが、呟くようにそう言った。
私には何の事だかよく分からなかったけれど…
俺"達"というのは、私の事なんだろうか。
私は返す言葉も見つからなくて、また本に目を戻す。
その時、さっきとは別の花言葉が目に入った。
その意味に、自然と微笑みが浮かぶ。
「…私達にピッタリだと良いですよね。」
「…あ?」
「何でもないです!」
そして話を逸らすように、図鑑の説明文を読み上げた。
「『主に壁外に生息し、壁内に出回る事は少ない。』
─この、壁外とか壁内っていうのは、何の事で─…」
リヴァイさんに問いかけようとしたその時、私の頭に鋭い痛みが走った。
あまりの痛みに言葉も出なくなり、頭を押さえる。
「おい?! 大丈夫か?!」
リヴァイさんが動揺したように立ち上がり、座っていた椅子が音を立てて倒れた。
そんな事も気に停めずに、リヴァイさんは震える手で私の肩を掴む。
「─っ…」
暫くして、ようやく頭痛は治まった。
私はこれ以上心配させないようにと、リヴァイさんに精一杯の笑顔を作る。
「一瞬頭痛がしただけですから、もう平気です。ご心配をお掛けしてすみません。」
そんな私を見て、彼の表情も少し安堵したようになる。
そして、彼は私の頭に手を置くと、くしゃ、と髪を撫でながら言った。
「お前は… そんな事、思い出さなくていい。」
─知らなくていいではなくて、思い出さなくていいと言ったのには、何か意味があるんだろうか。
そう思ったけれど、それを聞くとまた痛みに襲われそうな気がして…
リヴァイさんに寝かされるままに、その日は眠りに着いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。