私は紅茶を継ぎ足したカップを、リヴァイさん─
─いや、兵長に手渡す。
開け放たれた窓から入った風が、静かに私の髪を揺らした。
それに表情を隠すようにして、私は窓の外を見るフリをする。
─顔を、兵長に見られませんように。
そうして、口を開いた。
「ねえ兵長、ご存知ですか?
前に持ってきて下さったお花… ジャーマンアイリスの、もう一つの花言葉。
『恋のメッセージ』、っていうんですよ。」
何処と無く、ただ思い出しただけ、というように言ってみる。
それから、少し高揚した胸を抑えるように、私も紅茶を一口飲んだ。
カップの間からチラリと兵長の方を見てみると、彼の紅茶を飲む手が一瞬止まったのが見えた。
「…さあな、初耳だ。」
少し間が空いて、どこかからかうような口調になって兵長が言う。
そして兵長も窓の外を見ると、独り言のように、ポツリと呟いた。
「…だがまあ、悪くねえな。」
またからかっているのか、私に聞こえないように言ったのかは分からないけれど…
その声は窓から入ってくる優しい風に乗って、私の耳まで届いた。
【END】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!