プリ小説

第9話

翼【リヴァイside】

俺はペトラの病室の前に来ると、扉は開けずにその横へ寄り掛かった。
何をするという訳でもなく、ただそこにいるだけ。

中からペトラの泣く声がする度に、自分のせいなのだろうと、自身を責める毎日だった。
こんなの俺の自分勝手だと、分かってはいるのだが─ …


その時、病室の扉が静かに開いた。

入院中滅多に出歩く事の無かったペトラだから、予想外の出来事に、俺はそこからすぐに立ち去る事が出来なかった。

部屋の中から顔を見せたのは、やはりペトラだった。
手には紅茶の入ったカップを二つ、盆に乗せて持っている。


「リヴァイさん…」

少し驚いているような、喜びのような、悲しみのような…
そんな表情を浮かべるその顔は、泣き腫らして少し赤くなっていて。


「…リヴァイさん、お話があるんです。
紅茶でも飲んでいきませんか?」

そう言ってペトラは、少し不安気に微笑んだ。

***

「…あの時は、本当にすみませんでした。」
ティーカップを一つ俺に手渡しながら、ペトラが言った。

「いや… お前が怒るのも当然だ。」

ペトラは、少し悲しそうな笑顔を向ける。
「やはり… 教えては頂けませんか。」

「ああ…。」

「そうですか…。」

「…こんな俺を、不気味に思うのも分かる。お前の両親だって、きっと良くは思っていないだろう。
だから… ─俺はもう、ここには来ない。」

そう言って、紅茶を一口飲んだ。

あの頃のまま変わらない、ペトラの淹れた紅茶の味。
それだけが、今となってはあの出来事が嘘ではなかったのだと記憶を繋ぎ止める、唯一の証のような気がした。


「私はもう、例えリヴァイさんとの過去が分からないままだとしても…
今のリヴァイさんの優しさを好きになったんだって、あれから気付いたんです。
リヴァイさんも扉の向こうで… 私の泣き声、聞こえていたんじゃないですか?」


その言葉に、俺は口を開きかけたが、一瞬戸惑う。

「…さあな。初耳だ。」
不自然な間を空けて、俺は答えた。

それを聞くとペトラは、少し困ったように微笑み…
俺に背を向けると、窓の方へ歩いていった。

そして窓を開け、出窓にその身を乗り出す。

「おい、何する気だ。 ここは3階だぞ。」

「私ね、こうしていれば、何だか不思議と… 自分は飛べるんじゃないかって、そんな気がしてくるんですよ。
…─いえ。

私は飛べた筈なんです。」

そう言うペトラの目は、真っ直ぐ空を見つめていた。
その視線の先には…

白と黒の翼で自由に空を飛び回る、カモメの姿。


俺は何だか、そのままペトラが空に吸い込まれてしまいそうに思えて…
気が付くと、ペトラの腕を掴んでいた。

「リヴァイさん…?」
ペトラが少し驚いた顔でこちらを見る。

「す、すまない…」

俺は慌てて手を離すと、そのままペトラに背を向ける。
そしてその気持ちを隠すように、早足で扉へと向かった。

「リヴァイさん!」
ペトラがもう一度呼び止める。

「…もう、来てくれないんですか?
二度と、会えないんですか…?」

冷静を保って、でも少し震えている声に… 俺は足を止めた。

そしてドアノブに手を掛けたまま、振り返らずに言う。

「退院するまでの、あと少しの間だけ来てやる。
…さっきみたいに、何しでかすか分かったもんじゃねえからな。」

「 …! はい!! 」

ペトラの表情は見えなかったけれど…

久々に聞くその明るい声に、俺は心に安堵のような物を抱えて、病室を後にした。

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ニャンコ先生@超低浮上
ニャンコ先生@超低浮上
昔画像投稿の方でも投稿していた進撃の巨人の小説を、手直しを加えつつ書いていこうと思います! ※会話形式の小説は好まないので、普通の小説風な書き方をします。
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