暗い道を俺はただ一人で歩いていた。
何で俺は歩いているんだろ…。
さっき崖から飛び降りて死んだはずなのに…。
一歩一歩、踏み出す度に体が楽になる。
何処まで行けば完全に楽になれるのだろうか?
暫く歩くと、大きな門が見えた。
その扉は半分開いていて、奥に広がるのは俺が今いる場所とは真逆の綺麗な青空と明るい日差し。
そんな光と闇のちょうど狭間に誰かが座っているのが見えた。
近付くほど、その人の顔が見えてくる。
そして、俺はその顔を知っていた。
扉の真ん中で神崎さんがお菓子を食べている。
菓子袋を差し出して「食べてみて」と言われ、俺は袋からクッキーを取ると口に含む。
楽しそうに笑って、神崎さんはクッキーをぽいぽいと口に放り込んでいく。
まだ生きるチャンスは残ってる?
返答に困る俺に神崎さんはまた笑う。
すっごいユルユルな人だな…。
スズの本体…あの実験施設みたいなところ……
スズをふざけ合った日々が脳裏を過ぎる。
英語の発音が上手すぎて聞き取れなくて喧嘩になったり、テレビゲーム中にいきなりテレビを見始めて喧嘩になったり……でも、俺が寝落ちしたら電気を消してくれたり、留守の間の電話にも全部対応してくれたりしたな…。
食べ終わった神崎さんは菓子袋を後ろに投げ、俺を真反対の方向に向けると背中を押した。
俺は一目散に走り出した。
信じる正義のために。
俺のために身を売ったスズを助けるために。
正義のために巻き込んだ澪のために。
走る度に胸が苦しくなってくる。
走る度にどんどん辛くなる。
真っ暗だった道。
でも、走り続けるとその先に光が見えた。
あと少し…!!
絶対に世界に明るい未来を…っ!!!
暗い中から蛍光灯が光る天井が見えた。
ここは…
周りを見ると、開いた障子から庭園が見えてししおどしが心地の良い音を鳴らす。
身を捩らせると布団が体に擦れる。
感覚がある。
先生と瑠璃、その後ろにはパソコンを手にする眠そうな男子と狐の面を付けた真っ白なくせっ毛の長髪に神職みたいな服装の男子が縁側にいる。
面白いことを思い出したように先生が笑う。
瑠璃と狐が頷くと、2人はその場から去った。
日本の守り神の狐って本当にいたんだ…
そう言い、先生は部屋から出て行った。
澪……。
大丈夫だといいんだけど…
そうして、俺は存在的には死んだが、スズのために政府を覆す計画に参加したのだった……。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!