デビューしてから今日まで過ごした宿舎。
悔し涙も
嬉し涙も染み込んだこの宿舎との別れ
長いようで短かったこの狭い宿舎には
たくさんの思い出がありすぎて
離れがたい。
遠くでマンネ達がここを出ていくことを渋っている
わかるよ。
俺たち的にも会社的にも
今の現状ではここで生活する事に限界を感じていることも。
そしてマンネ達がここに残りたい理由も
知名度が高くなるにつれファンも増えていった。
それと同じようにサセン達も増えた。
サセン達にもこの宿舎はバレているし
セキュリティも強固ではないから
ポストに手紙や時にはゾッとするものまで投函されてたり
玄関の前まで来たり。
身の危険を感じないわけではない。
それでもここにいたいのは
思い出がありすぎて手放すのが怖いから
マンネ達を宥めるマネヒョンの声が聞こえる。
その声をBGMに荷造りを進める
いつだったかあいつに押し付けられたベットホン。
俺はオーディオテクニカ
アイツはスカルキャンディ
それぞれにこだわりがあった。
作業室のソファーの右端はアイツの特等席だった。
名前の通りスカルが描かれた
見た目は少しゴツめのヘッドホンをして
目を閉じて
アイツはいつもいた。
落ち着く。
ここに来ると口癖のようにそうこぼしては
ここで共に過ごした
俺の纏う空気感とアイツの纏う空気感
波長があったんだと思う。
重低音の響きがいいとプレゼントされた
アイツお気に入りのベットホン
使わずにいたら少し拗ねていたのを思い出した。
大事にしすぎて使えなかった
次作る曲はこれをつけて作ってみようか。
ダンボールの中に大切に仕舞い込むと
笑みが溢れた。
アイツはなんと言うだろうか。
–––––––––コツッ!
何が倒れたような軽い音。
そこにあったのはアイツのパンドラの箱。
いやパンドラという名のあいつの軌跡
怖くて開けようとしなかったソレ
なんとなく手を伸ばし
今まで開くことのできなかったソレ
もう大丈夫だろうか
大丈夫だと思う。
ソレを手に取るとその開けることのなかった
パンドラの箱を開けた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。