本当は宿舎に行く予定などなかった。
きっとこのジナの言葉を聞いていなければあの日あの場所に俺はいなかった。
ある程度仕事が片付いた頃向かった宿舎。
インターホンを鳴らしてみても応答はなかった。
マスターキーであけた玄関扉。
扉を開けてから聞こえてきた何かをぶつけるような鈍い音。
その音がする方に歩みを進めれば目に飛び込んできたのは
キッチンの奥で床に座り込み
悲痛な表情を浮かべながら床に腕を打ちつけるあなたと
床に散乱した皿の破片。
その光景が信じられなくてしばらく動けなかった。
徐々に嗚咽混じりにつぶやきながら尚も腕を打ち付けるあなた
《なんで?》
その三文字。
その三文字を口にして止まる方なく打ちつけるあなたを
みていられなくて咄嗟に掴んだ腕は。
腕は打ちつけたところが赤黒いあざになっていた。
思わずあなたを抱きしめてゾッとした。
あなたの体があまりにも細すぎたから。
少し前までは細くてもそれなりに筋肉のある体つきをしていたが
その時抱きしめたあの子はまるで骨と皮だけのような
弾くと倒れていきそうな
下手すると壊してしまいそうな恐怖を抱いた。
腕の中で泣き叫ぶその子。
初めてだった。
あなたと出会ってしばらく経つがこんなに感情を爆発させたのは
初めてだった・・・
そして聞いた。
あまりにも残酷な現実。
まだ人生の半分も生きていない。
そんな子が何故?
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。