第68話

血の繋がり
634
2020/04/15 11:00
両親を失った臆病な黒髪の少年は目の前で兄を亡くした私の手をずっと握っていた。

基地に着いてからも、戦争が終わって日本に渡る時も移動の時は常に隣にいた。

血の繋がりのない少年は傍にいるのに、血の繋がりがある父はいつも傍にいなかった。

兄が死ぬ時も、お母さんが入院してからも。
槐 澪織
こいつは指を全部切り落としてから殺すべきでしょ!!
神々 竜二
はぁ?んなのつまんねぇだろ!やるなら骨を折ってからだ。
何故かここに駆けつけた神々竜二ともめていたのは、倉庫の壁に磔にした私の"実の父親"の殺し方。
私は指を切り落としてからって言ってるのに、この人は骨を粉砕って言って意見が合わない。
神々 竜二
…てか、よく考えたら何でそんなに自分の親父を殺したがるんだよ。
槐 澪織
可愛い弟に危害を加えたから。
男性
血も…繋がってない、くせにな…
槐 澪織
うるさい。
お父さん
ぐあぁぁ…っ!
私は持っていたナイフを躊躇なくお父さんの肩に突き刺して引き抜く。
そして、ナイフについた血を振り落としながら大きな溜息を吐いた。
槐 澪織
全く…非効率な指揮をして戦争を長引かせたわ、お母さんの治療費盗って逃亡するわ、弟に危害を加えるわ、ほんと最低な人だね。
神々 竜二
こいつが指揮?どう考えても弱者じゃねーか。手応えなかったし。
槐 澪織
そこは私も同意。
神々 竜二
娘は強くて最っ高に楽しい相手なのに親はこれとか笑うしかねぇな。
男性
…はっ…笑っとけ……
…で、お父さんどうやって殺そうかな。
肉削ぎでも良いけど、あまり時間はかけたくない。
さっさと指切り落として首を掻き切ればいいんだろうけど神々がうるさいし…
男性
まぁ、私からしたら…もう叶うことの無い夢をずっと…未だに夢見てる誰かの方が、笑えるけどな…醜い悪魔め…
槐 澪織
黙れっ!!!
私の蹴りはお父さんを磔にしている太い釘に当たり、お父さんは呻き声を上げる。
実の親に面と向かってこんなこと言われるとは思ってもいなかった。


醜い悪魔。


たった今言われたことを頭の中で復唱しただけで悲しくなって気付けば目に涙が滲む。
槐 澪織
……もういいよ、死ね。
ナイフで首を掻き切ろうとした時、あるはずのない背後からの発砲音と同時に持っていたナイフは弾き飛ばされてしまった。
不敵に笑うお父さんを見て、まさかと思い振り返るとそこにはボロボロになった軍人が何人も立ち上がって武器をこっちに向けている。
神々 竜二
…あれで生きてんのか。
槐 澪織
戦闘不能で済ませとけばいいものを…何を命令した?自分を死守?
男性
それもあるが…俺を救うのは無理、だと判断した場合には…
銃口がこっちを向いていない……?
槐 澪織
まさか…っ!!
私は咄嗟にまだ気を失っている緋夏に手を伸ばす。
すると、神々がいきなり私の背中を蹴ってきて私が倉庫の中に入るなり、歪んだ扉が閉められた。
槐 澪織
開けて!!そいつら、今すぐにでも全員細切れにしないといけないの!!
神々 竜二
こんな雑魚、俺一人で十分だ。片付け終わったら…てめぇの親父、指の骨全部折って切り落としてやろうぜ。
槐 澪織
私も戦うから!!
神々 竜二
てめぇは大切な家族守っとけ。
数秒後には扉の向こうへから叫び声が聞こえていた。
目の前の扉を軽く押すだけでここから出て緋夏に手を出したアイツらと戦うことが出来る。
…なのに、私は扉を押すことが出来なかった。
槐 澪織
緋夏…
寝ている緋夏を引き寄せると応急処置の布に血が滲んではいたが、いつも繋いでいた手を優しく握って静かに終わるのを待った。
槐 澪織
ごめん、ごめんね…戦争は終わったのにこんなことに巻き込んじゃって…私に何があろうと絶対に緋夏とお母さんのことは守るから…大丈夫…
緋夏をこの倉庫から出すと、多分助けたって認識されてお父さんの首の爆弾が爆発する。
本当なら今すぐ緋夏をこの場から離したいけど、私の怒りが強くてまた倉庫に残していた。

お父さんの最期を苦しめる為に。




















終夜 渚紗
やっと着いた…!疲れた…
雅楽 海凪
朝になったらやっぱ人も増える…
終夜 渚紗
てか、何この惨状……
戦争でもしているのかと言いたくなるような光景に私と海凪は固まる。
すぐ近くから聞こえた誰かの悲鳴に顔を見合わせると瓦礫を踏みつけながら白煙が昇る倉庫へと向かった。

白煙がもう目前となった時、立ち止まって何かを見ている蓮水と陽向を発見して海凪が背中を叩く。
雅楽 海凪
なーに見てんの?
蘭 陽向
う〜ん……人の解体ショー?
雅楽 海凪
へ?
蓮水 黎
見ればすぐに分かる…
終夜 渚紗
…………いやいや、嘘でしょ…?
倉庫の壁に磔にされた男性の指は10本中5本はあるべき場所になかった。
残っている指も赤紫に変色してパンパンに膨れ上がっている。

倉庫を囲むように倒れている武装している人達の大量の死体はどれも体の部位が普通ならありえないような方向に向いていた。
神々 竜二
次、どこやる?
槐 澪織
んー、何処がいいかな…太い親指?
神々 竜二
おーやーゆーびー……っと。
男性の前に立つ神々と澪織。
澪織が親指と言ったのを聞いて、神々は持っていたナイフで男性…澪織の父親の親指を切り落とした。
苦悶の表情、声にならない悲鳴。


一体何があってこんなことになったの……
槐 澪織
てか、こんなことしてたら高校生来ちゃうじゃん。貸して。
神々 竜二
ん。
槐 澪織
全部落としちゃお。
雅楽 海凪
うげっ…ぐっろいな、あれは。
蘭 陽向
グロ漫画とかじゃよく見るけど、実際に見ると凄いよ…
澪織はナイフで“手首”を切り落とした。
槐 澪織
あ、そろそろ限界かな?
神々 竜二
聞いても話せねぇだろ、痛すぎて。
槐 澪織
確かに…まっ、お父さん。下手な指揮、お母さんの治療費盗って逃亡、緋夏に手を出す…とか色々とさ、地獄で反省しといてね。
ナイフを水平に動かすと澪織の父親の首から大量の血が噴き出した。
その様子に満足したのか澪織は嬉しそうに笑うと神々に向かって手を差し出す。
槐 澪織
こういうことでしょ?
神々 竜二
おっ、分かってんじゃねーか。
神々が澪織と握手をしたその瞬間、視界は歪んで私の意識は遠のいていった……

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