両親を失った臆病な黒髪の少年は目の前で兄を亡くした私の手をずっと握っていた。
基地に着いてからも、戦争が終わって日本に渡る時も移動の時は常に隣にいた。
血の繋がりのない少年は傍にいるのに、血の繋がりがある父はいつも傍にいなかった。
兄が死ぬ時も、お母さんが入院してからも。
何故かここに駆けつけた神々竜二ともめていたのは、倉庫の壁に磔にした私の"実の父親"の殺し方。
私は指を切り落としてからって言ってるのに、この人は骨を粉砕って言って意見が合わない。
私は持っていたナイフを躊躇なくお父さんの肩に突き刺して引き抜く。
そして、ナイフについた血を振り落としながら大きな溜息を吐いた。
…で、お父さんどうやって殺そうかな。
肉削ぎでも良いけど、あまり時間はかけたくない。
さっさと指切り落として首を掻き切ればいいんだろうけど神々がうるさいし…
私の蹴りはお父さんを磔にしている太い釘に当たり、お父さんは呻き声を上げる。
実の親に面と向かってこんなこと言われるとは思ってもいなかった。
醜い悪魔。
たった今言われたことを頭の中で復唱しただけで悲しくなって気付けば目に涙が滲む。
ナイフで首を掻き切ろうとした時、あるはずのない背後からの発砲音と同時に持っていたナイフは弾き飛ばされてしまった。
不敵に笑うお父さんを見て、まさかと思い振り返るとそこにはボロボロになった軍人が何人も立ち上がって武器をこっちに向けている。
銃口がこっちを向いていない……?
私は咄嗟にまだ気を失っている緋夏に手を伸ばす。
すると、神々がいきなり私の背中を蹴ってきて私が倉庫の中に入るなり、歪んだ扉が閉められた。
数秒後には扉の向こうへから叫び声が聞こえていた。
目の前の扉を軽く押すだけでここから出て緋夏に手を出したアイツらと戦うことが出来る。
…なのに、私は扉を押すことが出来なかった。
寝ている緋夏を引き寄せると応急処置の布に血が滲んではいたが、いつも繋いでいた手を優しく握って静かに終わるのを待った。
緋夏をこの倉庫から出すと、多分助けたって認識されてお父さんの首の爆弾が爆発する。
本当なら今すぐ緋夏をこの場から離したいけど、私の怒りが強くてまた倉庫に残していた。
お父さんの最期を苦しめる為に。
戦争でもしているのかと言いたくなるような光景に私と海凪は固まる。
すぐ近くから聞こえた誰かの悲鳴に顔を見合わせると瓦礫を踏みつけながら白煙が昇る倉庫へと向かった。
白煙がもう目前となった時、立ち止まって何かを見ている蓮水と陽向を発見して海凪が背中を叩く。
倉庫の壁に磔にされた男性の指は10本中5本はあるべき場所になかった。
残っている指も赤紫に変色してパンパンに膨れ上がっている。
倉庫を囲むように倒れている武装している人達の大量の死体はどれも体の部位が普通ならありえないような方向に向いていた。
男性の前に立つ神々と澪織。
澪織が親指と言ったのを聞いて、神々は持っていたナイフで男性…澪織の父親の親指を切り落とした。
苦悶の表情、声にならない悲鳴。
一体何があってこんなことになったの……
澪織はナイフで“手首”を切り落とした。
ナイフを水平に動かすと澪織の父親の首から大量の血が噴き出した。
その様子に満足したのか澪織は嬉しそうに笑うと神々に向かって手を差し出す。
神々が澪織と握手をしたその瞬間、視界は歪んで私の意識は遠のいていった……
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。