海凪が瀬田さんを見ながらそう言うと、瀬田さんはぼんやりと空を見つめ、手を上げる。
すると、空に雲が集まってきてやがて私達を避けるように大粒の雨が降ってきた。
遠いところから騒ぐ声がしたと思うと隣にいた夢奈ちゃんが「この声は一青さんですね。」と呟く。
響が悩むように私に聞いた途端、私達にも雨が降り掛かってきた。
確かにそうだ。あの空中からの攻撃の時も雲は1つも見られなかった。
となると、これは本当に自然として降った雨?
考える前にこんな場所でびしょ濡れにならないようにと走り出した夢奈ちゃんを追いかける。
沢山の葉が茂って雨が当たらない大きな木の下に駆け込むと、目の前の景色を見て溜息を吐く。
何か降らしたせいで本物の雨を呼び寄せたみたいになってしまった。どうしよう。
この雨がスグに止むかも分からないし、これじゃあ私達が他に見つかって殺される。
次の計画を頭の中で練っていると再び響が少し悩んだ表情で口を開いた。
その時、土砂降りの雨の中、目の前に一頭のヒョウがいて私達をじっと見ていた。
海凪と響が警戒態勢に入る中、そのヒョウはくるりと方向を変えると、茂みの前まで歩く。
そして、再び振り返って私達を見た。
意味の分からない行動を不思議がっていると、私のフードからクロが飛び出しヒョウを追いかけた。
私がヒョウについて行ったクロを追いかけると、ヒョウは少し早足で歩き始める。
十数分程歩くと、所々周囲の木が伐採されていることに私は気が付いた。
そして、さらに数分歩くと本格的な高床式になっている木製の家が見えてきた。
ここまで案内してくれたヒョウはそのまま家に向かって歩いて行くと家の下の雨を凌げる場所へ。
私達が家の出来に感心していると、入口と思われる部分の板が開き、中から陽向が顔を出した。
そして、「入る?」と聞かれて私達は答える前に家の中にお邪魔させてもらった。
中は意外と広く、トラの皮で出来た絨毯があったり部屋の真ん中に囲炉裏みたいので火がついていてそこで魚を焼いている。
後ろから声が聞こえて、振り向くと一青さんのところにいたはずの梵君が立っていた。
隣の部屋にいたのか後ろからは蓮水が出てくる。
何で一青さんのところにいた梵君がここにいるのかがスグに理解出来ない。
それが表情に出ていたのか梵君が説明を始めた。
梵君が指したのは部屋の角。
そこには設計図と鉛筆の素材の鉛の塊を持ったままの巫と金槌を持ったままの澪織が電池切れのように伏せて寝ていた。
まぁ、完成したのがついさっきならあのテンションが凄い2人でもこうなるだろう。
他の人達が他の会話をし始めた時に小さな声で蓮水に呼ばれる。
「このあとの話だ。」と言って隣の部屋に向かった蓮水を私は追いかけて部屋に入ると扉を閉めた。
すると、床に座った蓮水がどこから入手したのか大きな紙を広げ、小さな紙を取るとさっき巫が持っていたような塊を手に取った…。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!