第34話

焼け野原
1,183
2019/07/15 15:51
巫と《切り裂きジャック》と《ヘンリー》を倒してから数日が経ったが、未だに残りの人数は18人で変わりはなかった。
ジャングルはもう言葉にできないくらいに暑く、何で屋内なのにこんなに太陽みたいなのが輝いているのか不思議でたまらない。
そして、私と巫が話していた通りみんなが戦いを避けていたがどれが食べ物か不明なこのジャングル。
知識量が高い者ほど、生存確率が上がる。
実際にあの後、私が食料を探している最中に会った陽向は既に食料を手に入れており私に分けてくれるまでの余裕を持っていた。
終夜 渚紗
あぁ〜…自然は怖いな……
そうボヤきながら、私は探し出した透き通った川の飲める水を手で掬って飲んでいた。
陽向が分けてくれた食料もそろそろ尽きる。
自分で何かしら探さないとこのままじゃ、本当に誰かと戦う前に餓死してしまう。
どうしたら、この自然に立ち向かいながら一瞬でこのゲームを終わらすことが出来るのか。
12人まで減らさないといけないから、あと死ぬのは6人。
なら、私が11人に声をかけて協力して他の6人を孤立させて餓死するのを待つのもいいかも。
そんなことを思っていると突如、鼓膜が破られるような大爆音が耳に響いた。
そして、その音に驚いた動物達が鳴きながら走ってくる。
終夜 渚紗
うわっ!!!
今の音…こんな大きな音は与えられた能力以外に考えられない…
音はかなり近かったから誰かが近くにいる…?
終夜 渚紗
……行こう。
音のした方にゆっくりと歩いて行く。
歩いて行くとそこは焼け野原。
その真ん中に男子が1人立っていて、足元に倒れている女子を見下ろしていた。
それは私が見覚えるのある人…
終夜 渚紗
響!!
響に駆け寄ると、私に気付いたのか薄らと瞼を開けて響は私を見た。
犯人と思われる男子は急に乱入してきた私に全く興味が無いのか大きな欠伸をする。
だが、警戒はしているように見えた。
終夜 渚紗
響、何があったの?
樹神 響
別に戦いになっただけだ…ただ、相性が悪ぃ…さっきの爆発で…海凪は風に吹っ飛ばされた…。俺は能力で耐えたけど、結果はこれだ…
男子
何だ、お仲間の登場か?ソイツ、無駄に頑丈で今ので死ぬかなって思ったんだけどな〜…想像以上だ。それに比べてもう1人は能力を見せる前に吹っ飛んじまった。
終夜 渚紗
……。
コイツ、スグに殺してやろうか。
そう思ったものの、私は冷静になる。
あのナイフは周りに何かがあった方がより活用出来る。でも、今いるのは焼け野原。
紐を巡らせるような物は何一つない。
この焼け野原で爆発物のような能力相手に時間操作も相性が悪いだろう。
誰か助けが来るのを待つか、響を背負ってここから出来るか分からないけど逃げるか。この二択。
どうしようか、迷っていると遠くの方から物凄いスピードで弾丸のような水が飛んできた。
男子
っと…
終夜 渚紗
これって…
水を操る《ヘンリー》の能力って瀬田優梨じゃ?
確かにあの子は殺したはず…
男子
!……瀬田、どういうつもりだ…。それに光。お前も…
元同じチームだったから気付き、驚きの表情を浮かべた男子。それ以上に私は驚いていた。
何故、殺したはずの瀬田優梨と菅野光がここにいるのか、どうして死人が動いているのか。
2人の見た目は一目瞭然で死んでいる。瀬田優梨は首から流れた血が黒い線として固まり、菅野光は腹部が丸く真っ黒になっている。
目も焦点が合っておらず、何処を見ているのかが全く分からない。
すると、私の背後から1つの足音がした。振り返ると銛を片手に持ち所々から血を流す海凪。
威圧オーラを放つ目に額に血管が浮かぶ。
雅楽 海凪
…あたしゃ、漁師んとこに生まれた長女としてなぁ…弟妹達の世話をしながら船に乗っけってもらったし、ヤンキー高だったんでそんな勉学学ぶ時間がな…。やっと分かったわ、この能力…あんま海の女を舐めんなよ?てめぇの脳天ぶち抜いたる。
ブチ切れ状態の海凪が笑顔でそう言い放つと同時に瀬田優梨の死体が動き、焼け野原の中心に海凪と敵の男子を包む巨大な立方体の形の水が現れた。
銛を構えると海凪が水中を自由自在に動き回り、敵を刺そうとしていた。
敵は逃げ回ると共に水の中で爆発を起こしているがその衝撃が海凪に伝わる前に菅野光の死体がその部分の水を裂いて衝撃を減らしている。
立方体の水の中での激しい戦闘に目を取られていると、隣で欠伸をしながら響が起き上がった。
終夜 渚紗
大丈夫なの?
樹神 響
あぁ、俺は《サン・ジェルマン伯爵》だったからな。確か不死身と呼ばれた偉人だった気がする。再生には時間がかかるがそう簡単には死ねない。
終夜 渚紗
海凪は何?
樹神 響
《ポル・ポト》って偉人。
終夜 渚紗
《ポル・ポト》ってどんな人?
樹神 響
そうだな…支配者って言い方が分かりやすい。大量虐殺をした上に女子供構わず奴隷化させてた政治家。
終夜 渚紗
じゃあ、何だろ…海凪の能力を簡単に説明すると死人を操る、みたいな?
樹神 響
まぁ、そんなところだろ。
終夜 渚紗
相手は?
樹神 響
アイツは《ノーベル》、ほらあの爆弾のダイナマイトを作った人。
終夜 渚紗
だから、爆発…。
樹神 響
そういうこと。爆発物相手に不死身が立ち向かったところで永遠に爆発と再生を繰り返すだけだ。
終夜 渚紗
確かに。
樹神 響
どうしようか。援護っつっても俺じゃ何も出来ないし。
終夜 渚紗
ん〜…ここは海凪と死体に任せて他の誰かを探す?
女子
── 私が相手してあげましょうか?
いつの間にか私と響の背後に立っていた小柄な少女にも見える女子高生はにこやかに微笑んだ……。

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