第76話

友達
638
2020/05/22 11:00
未来は決まっていて曲げることは出来ない。

未来が見えてもあまり幸せではない。

分かりきった未来を生きて何が楽しいのか。

何が起こるか分からないからこそ未来は輝いていて楽しんじゃないか、と僕は思う。
銀鏡 右京
目、覚めちゃったな…
完全に手を抜かれて勝った僕。街に入ると、徹弥君と分かれ探索をしていた。
一回りしたところで響いたブザーの音。
それは“予知通り”で僕は嬉しいけど、半分悲しい。

黎君達が来たことは嬉しい。
でも、それは珠璃ちゃんの犠牲があってこそ。
珠璃ちゃんは口には出さなかったし、態度にも出さなかったけど、全てを僕達生き残りに託した。
真相を見つけて、主催者が堕ちる。そう信じて。
多分、言葉にするのが苦手なだけで珠璃ちゃんは普通に話せば良い人なんだよね…ちょっと残念。
灰の未来は敢えて見なかった。
勝者が決まる最後のゲーム、最後まで分かりきった結末なんて嫌だ。
最後のゲームくらいは皆と同じようにいつ終わるか分からない未来を生きたい。
竜二君に見つかる前に黎君に会えたらいいけど…


そう思いながら、僕は街を歩いていた。
人は一人もいないけど、あまり外に出ない僕からしたら全てに興味がある。
体が弱いから過度な運動は無理、長時間外にいるのも無理、ずっと屋内で静かにするしかない。
こんな街中なんて歩いたことがない。
だから、僕にとってはこのゲームは初めてのことだらけだった。

走らされたことなんてなかったし。
初めてではないけど、こんなに人と話したのも物凄い久しぶりで…
この運命に感謝しているところもある。
銀鏡 右京
…君はどうだった?このゲーム。
蓮水 黎
!……右京…
僕に気付かなかった黎君が振り向いて僕を見るなり、慌てて距離を取る。
銀鏡 右京
まぁまぁ、時間はあるんだからそう警戒しないでよ。
蓮水 黎
そう言われても万が一。
銀鏡 右京
黎君は人目が怖いみたいだけど…このゲームで何回か注目されたじゃん?やっぱ怖かった?
蓮水 黎
…キツい。人に見られていると思うだけで精神的に…
銀鏡 右京
静ちゃん、かなり人気者だったからね…そう言えば、彼女今どうなったっけ?
蓮水 黎
さぁ…聞いてないな。高校で東京に行ってからは親と連絡しなかったし、中学の奴らとも完全に縁切ったから。お前くらいだ、ずっと連絡先残ってる奴。
銀鏡 右京
あ、残ってるんだ。
蓮水 黎
べ、別にかけることはないけど、何か消しにくかったって言うかなんて言うか…
語尾を濁らせる黎君。
深く聞こうかな、と思ったけど可哀想だからそれはやめといてあげよう。
蓮水 黎
…良いだろ、あっても。駄目か?
銀鏡 右京
うん、全然いいよ。寧ろ嬉しい。
見た目は中学校の時に比べてかなり変わったし、性格も少し変わってるけど…根本的な性格は何も変わっていない。
銀鏡 右京
黎君…君は何だかんだ大変なことがあっても最終的には人に愛されてるね。
蓮水 黎
はぁ?何言ってんだ?そんなことない。
銀鏡 右京
愛されてなかったら悠真君や響ちゃんみたく君の為に死ぬ人も、渚紗ちゃんみたくゲームで心が折られかけても君の命があるからって生きようとする人も、澪織ちゃんみたくわざわざ自分の命が危険に晒されるゲームに参加してくれる人もいない。
どんなに冷たい態度を取ろうとも必ずいつも誰かが隣にいた、誰かが支えていた。

そんな黎君が少しだけ…羨ましい。
銀鏡 右京
…そう言えば、静ちゃん。かなりの大怪我だったらしいよね。完全に後遺症が残るとか。
蓮水 黎
!……
銀鏡 右京
風の噂で聞いたけど、ストレスの溜まりすぎであの後完全に鬱になって寝込んじゃったらしいよ。
蓮水 黎
…嘘だろ?
銀鏡 右京
ほんと。それでもう才能がないからって御両親が病院に放り込んで病院暮らしになったってお義父さんから聞いた。僕と黎君が消えて、学年1位にはなれたけど鬱になって1番の強みだった走り幅跳びを失ったからねぇ…
蓮水 黎
違う…俺は落とそうとか……
銀鏡 右京
分かってるよ、あくまで事実。別に責める気はない。
あと何分?あと何分残ってる?
今この瞬間、渚紗ちゃんが捕まることも有り得るし、徹弥君や竜二君達が捕まることも有り得る。

どうなるか分からない未来。
初めての体験で少し不思議な気分だった。
銀鏡 右京
体育祭、楽しみだったのに残念。あの頃に戻れたら良いのに…“友達”じゃないとしても君は本当に興味深くて面白かったから。
蓮水 黎
あの頃、か……あの頃はもういい。21ゲームであった奴らとのクラスだったら、少しは良かったかもな…
銀鏡 右京
そうだねぇ……よしっ、黎君。最終決戦にしようよ。
蓮水 黎
最終決戦?
銀鏡 右京
うん。君が正しいか、僕が正しいか。世の中は勝者が正しいんだから。
ゲームの連続で体力…いや、身体に限界が来ている。
でも、簡単に負けたくはないし、それじゃあ変に真面目な黎君は納得しない。
昔みたいに。

あの頃みたいにまた小さな喧嘩を。
銀鏡 右京
……これが僕と君の“最期”の喧嘩お遊び。全力で遊ぼ潰し合おうよ。
そう少し笑ってみる。
黎君は驚いたように僕を見ていたけど、決心したのか真一文字だった口の口角が上がった。
蓮水 黎
その言葉、後悔するなよ?右京。
銀鏡 右京
勿論だよ、黎君。

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