未来は決まっていて曲げることは出来ない。
未来が見えてもあまり幸せではない。
分かりきった未来を生きて何が楽しいのか。
何が起こるか分からないからこそ未来は輝いていて楽しんじゃないか、と僕は思う。
完全に手を抜かれて勝った僕。街に入ると、徹弥君と分かれ探索をしていた。
一回りしたところで響いたブザーの音。
それは“予知通り”で僕は嬉しいけど、半分悲しい。
黎君達が来たことは嬉しい。
でも、それは珠璃ちゃんの犠牲があってこそ。
珠璃ちゃんは口には出さなかったし、態度にも出さなかったけど、全てを僕達生き残りに託した。
真相を見つけて、主催者が堕ちる。そう信じて。
多分、言葉にするのが苦手なだけで珠璃ちゃんは普通に話せば良い人なんだよね…ちょっと残念。
灰の未来は敢えて見なかった。
勝者が決まる最後のゲーム、最後まで分かりきった結末なんて嫌だ。
最後のゲームくらいは皆と同じようにいつ終わるか分からない未来を生きたい。
竜二君に見つかる前に黎君に会えたらいいけど…
そう思いながら、僕は街を歩いていた。
人は一人もいないけど、あまり外に出ない僕からしたら全てに興味がある。
体が弱いから過度な運動は無理、長時間外にいるのも無理、ずっと屋内で静かにするしかない。
こんな街中なんて歩いたことがない。
だから、僕にとってはこのゲームは初めてのことだらけだった。
走らされたことなんてなかったし。
初めてではないけど、こんなに人と話したのも物凄い久しぶりで…
この運命に感謝しているところもある。
僕に気付かなかった黎君が振り向いて僕を見るなり、慌てて距離を取る。
語尾を濁らせる黎君。
深く聞こうかな、と思ったけど可哀想だからそれはやめといてあげよう。
見た目は中学校の時に比べてかなり変わったし、性格も少し変わってるけど…根本的な性格は何も変わっていない。
どんなに冷たい態度を取ろうとも必ずいつも誰かが隣にいた、誰かが支えていた。
そんな黎君が少しだけ…羨ましい。
あと何分?あと何分残ってる?
今この瞬間、渚紗ちゃんが捕まることも有り得るし、徹弥君や竜二君達が捕まることも有り得る。
どうなるか分からない未来。
初めての体験で少し不思議な気分だった。
ゲームの連続で体力…いや、身体に限界が来ている。
でも、簡単に負けたくはないし、それじゃあ変に真面目な黎君は納得しない。
昔みたいに。
あの頃みたいにまた小さな喧嘩を。
そう少し笑ってみる。
黎君は驚いたように僕を見ていたけど、決心したのか真一文字だった口の口角が上がった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。