第58話

ヒナツ
768
2019/10/31 12:20
終夜 渚紗
うわっ!
渋谷に着くと、私は初めての場所に周りを見る。
人、人、人、人、人……人だらけ。
東京住みの女子高校生で渋谷に行ったことがないと聞くと「え、友達いないの…?」となる人が多いだろうが、大正解。私に友達はいない。
行ってみたいとは思うけど、一人で来るのは流石に周りの視線が痛くて嫌だ。
終夜 渚紗
ここが渋谷…
蓮水 黎
もう一度、電話かけてみろ。
終夜 渚紗
う、うん。
私が澪織に電話をかけようと、周りの人々の困惑の声が聞こえてきた。
発信ボタンを押す寸前で顔を上げると、ビルに設置されているさっきまで天気予報が流れていた巨大モニターが砂嵐状態になっている。
呆然としていると、画面が真っ白になり、黒い文字が打ち込まれていく。
まるで、目に見えない21ゲームの主催者が進行役に指示する時のように…
【全国の高校生に告ぐ。これから流れる高校生達を捕まえろ。握手をすれば捕まえられるが、それ以外は無効だ。最初に捕まえた者には賞金として100万を与えr | 】
終夜 渚紗
いやいやいや…嘘でしょ…?
蓮水 黎
……これはかなりキツイ。
文字が消えたと思うと、画面に表示されたのは私達11人の学校名、氏名、そして生徒写真だった。
ほとんどが珍しい名前だから調べるのは容易いことだろう。
周りの視線が一斉にこちらに向く。
私と蓮水は数秒間放心状態に陥ると、我に返って顔を見合わせ走り出した。
男子
おい!アイツらじゃねーか!
女子
100万欲しいから捕まえようよ〜!
終夜 渚紗
プライバシーの保護は何処!?
蓮水 黎
あのゲームにいる時点で0だろ…!
終夜 渚紗
渋谷なんて来るんじゃなかった!!
大勢の高校生に追いかけられ私達は大人を押し退けるようにして走って逃げる。
確かにこれなら鬼から逃げて隠れないといけないから隠れ鬼と言える。
通りを走り抜けて道路に出て、車にクラクションを鳴らされようが私達は頭を下げながら避けて横断して走って行く。
時間が経てば経つほど、放課後の高校生が増えてきて段々と追い詰められていく。
真っ直ぐの道を後ろから追いかけられながら走り、曲がり角を曲がった時、私と蓮水は誰かに手を掴まれてそのまま路地裏に連れ込まれた。
気付かない高校生達は私達はさらに奥に行ったと思っているのかどんどん走って行く。
???
こうなると思ったから渋谷"周辺"ってわざわざ言ったのに…
終夜 渚紗
!………君が ───
男子
いたぞ!
男子
こっちだ!
蓮水 黎
……。
???
ったく…金の亡者が…
座り込んでいた私達から顔を上げて追いかけて来た男子達を見た、蓮水より一回り小さい男子は溜息を零して立ち上がると、踏み込んで横のビルの壁を足場に飛び上がってそのまま男子の顔面に膝蹴りをかました。
その一連の動きは何処かで見たことがあるような動きで誰の動きかを考えているとその子はさらに動き始める。
一発で倒れた男子を踏み付け、さらに前へと踏み込むともう1人のお腹に強い蹴りを入れる。
高校生達を片付けると、肩ぐらいまで伸びた髪をハーフアップで結んでいる中性的な顔立ちの男の子は私達の方を向いた。
槐 緋夏
俺はヒナツ、槐緋夏ひなつ。歳は15で中学3年、終夜渚紗さんであってるよね?
終夜 渚紗
そうだけど、槐って…
槐 緋夏
俺は姉ちゃん…澪織の義弟、昔戦争で姉ちゃんに助けられた。
私はあの映像を思い返してみる。
確かに緋夏君とあの男の子は似ていた。
あの後、澪織が引き取ったんだ…とか思いながら、私は立ち上がる。
すると、緋夏君は私に澪織が持っていた迷彩柄のスマホを渡してきた。
終夜 渚紗
澪織の…
槐 緋夏
一回家に帰ってきてたみたいだけど、スグにいなくなったらしい。元から帰って来ないんだからたまには顔くらい見せたらいいのに…
終夜 渚紗
え、会ってないの?
槐 緋夏
まぁ…いつもいないから。
蓮水 黎
それは多分…
蓮水が何かを言いかけるが、黙り込む。
私達は理解出来ず首を傾げるだけだった。
緋夏君がパソコンを取り出して、ついさっきの一瞬で広まった私達の顔写真を含め、ネットに公開されている情報を見せてくれた。
学校の場所や目撃地点、年齢などいろいろあがっているが今のところ住所は載っていない。
ちなみに見せてもらった中に追いかけられている神々が暴力で解決していた動画があったが、それは見なかったことにしよう。
槐 緋夏
で、用件は一つ。俺も渚紗さん達が捕まらないように手伝うから一緒に姉ちゃん探すの手伝って欲しい。俺がいれば姉ちゃんには及ばないけど、ある程度のことは出来るよ。色々姉ちゃん達が教えてくれたから。
終夜 渚紗
どうする?
蓮水 黎
頼もう、少しでも有利になるのなら。
槐 緋夏
ありがとう。黎さんってノア君にそっくりなんだね。写真が公開された時かなり驚いたんだけど。
終夜 渚紗
まぁ、世の中世界に2,3人そっくりさんがいるって言うから。
槐 緋夏
本当に実在するなんて思わないや。ところで二人は今起きてる怪奇現象について何か関わってたりする?
終夜 渚紗
怪奇現象?
蓮水 黎
具体的に頼む。
槐 緋夏
見た方がいい。
そう言った緋夏君が見せてくれたのは、ついさっき更新されたばかりの1つの記事。
私と蓮水は記事の題名を見て、いまいち理解出来ずパソコンを借りて見ることにした。

【速報】身元不明者続出!本日新たに44人を保護
つい先日から日本各地で保護されている10代後半と見られる男女達。本日新たに44人を保護したと警察が発表しました。新たに保護された男女達も全員が10代と見られ、何人かは自分の名前が言えるということです。ですが、これまでと同様に親族の名前は一切覚えておらず、なぜ彷徨っていたのかも全く分からないそうです。10代、身元不明…なんの関係があるのでしょうか?また情報が入り次第随時更新していこうと思います。

理解が追いつけない私達を見て、緋夏君は不思議そうにしている。
身元不明?意味が分からない。
でも、44人ってほとんどあの王国ゲームで死んでしまった人達の人数と同じだ。
もし今日本中に現れている身元不明者が21ゲームの敗者達としよう、ならあの時私達が見たのは何だったの?夢?それとも、死体から蘇った?
槐 緋夏
まぁ、こんな感じに大騒ぎしているんだけど…
蓮水 黎
…1ついいか。
槐 緋夏
何?
蓮水 黎
今の日本に2年1組は?
槐 緋夏
2年1組?小学校とか中学校なら普通に何処でもあるけど、高校だとかなり少なくて珍しいよ。あったとしてもその組の生徒は2人だけだとか。
終夜 渚紗
どうなってるの…
蓮水 黎
……もしかしたら、あのゲームの中で死ぬって言うのは命が消える"身体的な死"じゃなくて、居場所のない"存在的な死"なのかもしれない。
蓮水が出した結論に私は納得出来た。
確かにそれなら、現実味がある。
誰からも忘れられて、自分でも名前を思い出すことが出来ないで、忘れられるから家族も分からない。
そうなれば、死んだも同然だ。
…でも、それはあくまでゲームの敗者達のことで、最初に私が蓮水を選んだ時に死んだクラスの人達がどうなったのかは知らない。
別に知らなくても私が損することはないから、気にしようとも思わなかった。
終夜 渚紗
ねぇ…もしその存在的な死だったら、響とか巫も生きてるのかな?
蓮水 黎
!……確かに…
槐 緋夏
取り敢えず、まず何をする?姉ちゃんは別に後回しでもいいから。
終夜 渚紗
……海凪、陽向と合流したい。
槐 緋夏
その海凪さんと陽向さんの連絡先とか分かる?分かるなら居場所を特定して会いに行こう。
終夜 渚紗
お願い。
電話帳を開いた状態で緋夏君にスマホを渡すと、緋夏君はパソコンに電話帳を見ながら何かを打ち込み始めた。
1、2分すると私達にパソコンの画面を見せてくる。
そこには東京の地図が表示されていて、練馬と港区の位置に赤く点滅しているマークがあった。
これが2人の場所なら、陽向は今練馬区、海凪は港区にいるということになる。
画面を見ていた蓮水がふいに立ち上がり、それを見た私と緋夏君も立ち上がる。
蓮水 黎
先に近い雅楽から迎えに行くか…
終夜 渚紗
そうだね…いい?緋夏君。
槐 緋夏
もちろん。

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