終電も終わり、次の住所に向かおうとして歩き続けているとふいに海凪の着信音が鳴った。
こんな時間にかけてくるならまぁ、夜遅くに何処にいる?って聞いてくる親か21ゲーム関係者のどっちかだろう。
立ち止まると、海凪が通話をスピーカーにする。
切られた電話。
陽向が物凄い申し訳なさそうな顔をしている。
だが、取り敢えず咲織ちゃんは安心。
となると、優先順位は変わって次は海凪のお兄さんである航さんの救出。
残る住所もあと4つ。
2つが東京で1つずつ千葉と静岡にある。
東京は私達で行ったとして…静岡は綾翔?
そうしたら、千葉は誰が行こう…
みんなが頷くと、私達は再び歩き出す。
残るは海凪のお兄さん、澪織の弟の緋夏君、蓮水の父親、綾翔の母親の4人。
航さんと緋夏君が東京にいるのが一番の理想…。
それにしてもどうして千葉?
今の生き残りの中に千葉住みの人は誰もいない。
なのに、千葉の住所がある。
〜2:04 千葉〜
静まり返った千葉県。
当たり前のように24時間いつでも営業しているネットカフェでパソコンゲームをしていた。
ランクはMAX、ランキングも常にトップ、不登校なだけあってレベルアップは時間をいくらでも注げるから簡単だし、課金も大会で勝てばいいからいくらでもやっていた。
だって、一緒に遊ぶ友達なんていないから。
お金は私に使うだけにある。
ほんと、つまらない人生だ。
独り言を呟いて、ゲームを閉じてホーム画面に戻すとネカフェのパソコンから自前のパソコンとスマホに視線を落とす。
まぁ、みんながみんな助けに行く気はあるんだ。
…たった1人を除いてだけど。
渚紗ちゃんは何となく察したけど、まさか結弦君が澪織ちゃんと繋がっていたとは思わなかったなぁ。
2人で1つの住所に向かってて、2人以外の東京組はもう1つの住所に。
いつの間にか綾翔君、ゲームオーバーしてるし…
1時半の時点では普通だったからそれ以降か…
捕まっていた綾翔君の母親は解放されていて、倒れている綾翔君を不思議そうにみながらも意味も分からず捕まっていたのが怖かったのかそのまま立ち去っていた。
わざわざ助けに来てくれた実の息子を置いて。
この21ゲームで脱落した者は精神的な死。
21ゲームの参加者、及び進行役以外の全ての人間の記憶から消されるらしい。
脱落するのが上のステージになるほど、本人自身の記憶はあるのか名前を覚えている人はいるらしい。
全てが“らしい”なのは根拠が無いから。
2年1組への過度な執着心。
王国ドロケイのKが全員元不登校生だった点。
そして、進行役は不登校生から選ばれてた。
あの時…処刑寸前のダイヤの牢屋。
見たのはカメラ越しで冴祐君に言った肝心な部分は聞き取れなかったけど。
樹神響ちゃんは21ゲームの主催者に気付いていた。
紙に考えを書きながら私は呟き続ける。
確かにあの中に主催者がいるのなら、私達の処刑はみんながモニターに注目するからもし端末、もしくはスマホとかの携帯で操作してたら誰にもバレることはない。
モニターに映す評価も事前に入力したらいい。
もしそうだとしたら、途中参加の澪織ちゃん、優花ちゃん、竜二君の可能性は低いと考えられる。
蘭陽向君
雅楽海凪ちゃん
台徠斗君
終夜渚紗ちゃん
銀鏡右京君
煮雪徹弥君
蓮水黎君
生き残りの中にいるのならこの7人の内にいる。
パソコンを眺めて残り3つの倉庫の映像を見る。
海凪ちゃんのお兄さんは水槽の中の椅子に拘束されていて上から段々と水が注がれている。
澪織ちゃんの弟さんは壁に大きな釘で磔にされて、少しずつ画面外が赤くなっていることから部屋が燃え始めている。
黎君のお父さんは定期的に天井の半分が下がる部屋で針山に立つことを余儀なくされている。
3つの映像の1つに私は違和感を感じた。
じっと見るがやはり、1つだけ他とは違う。
ネットの力を使い、私は捕まっている人の誰が何処にいるのかを把握していた。
運良くその違和感は千葉の住所、行くしかない。
そう思った途端、私は立ち上がりネカフェのパソコンをシャットダウン。自前のパソコンをリュックに突っ込むとスマホとお金を片手に個室を出る。
どうせ千葉には誰も来ない。
今まで鬼は優しかったから簡単に救えた。
今の生き残りの人達にとって大量の高校生なんて敵でもない。ボーナスタイムの本当の鬼は優しいからまだ出て来てなかった。
でも、残りは違う。全てエキスパートモード。
特に澪織ちゃんのとこはマスターと言っても過言ではないはず。
鬼は優しくない。
深夜2時過ぎにタクシーを呼ぶ女子高生。
警察に見つかれば補導なんだろうけど、その場合は逃げるのみ。夜中で高くなってるけどそんなのどうでもいい。
運転手がこっちを見て驚きつつも止まったタクシーに私は乗り込むと私は唯一の千葉の住所を言った。
そう運転手に聞こえない声で呟くと、私は改めてスマホを見たのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。