第56話

以心伝心
809
2019/10/20 09:06
終夜 渚紗
………ん?
恐る恐る瞼を開くが、私は生きていた。
だが、巫の姿は消えている。
周囲を見回すも戸惑う私と地に伏せる澪織以外の姿は無かった。
ゼェゼェと息を荒らげている澪織に無言で肩を貸して立ち上がった時、今度は結弦の声が聞こえる。
胡蝶 結弦
『王国ドロケイ終了、生存者は始めの場所に集合してください。』
終夜 渚紗
……澪織、背中乗る?
槐 澪織
!……
ほぼ力が抜けているらしく、足元がヨタヨタしているのを見て、私は澪織をその場に座らせ目の前で背を向けしゃがんだ。
戸惑った表情を浮かべる澪織に改めて「背中、乗っていいよ。」と言うと少し躊躇しながらも背中に乗り、私は立ち上がり歩き始める。
終夜 渚紗
あの時間で誰が蓮水を…
そんな独り言を呟きながら始めの場所へ。
着くと、そこには見知った顔が多く、逆に知らない人はいなかった。
…でも、夢奈ちゃんの姿は無かった。
まだ来ていないのか、それとも処刑されたか。
私に知る余地はない。
すると、前方の方から蓮水と徹弥、そして…
終夜 渚紗
神々…
そうだ、クラブには神々がいた。
よくよく考えてみると、あの杜若君の悪夢を見終わった時に見たレーダーには私と陽向しか表示されていなかった。
生き埋めになったはずの神々には所々包帯が巻かれていてある程度の応急処置が施されている。
神々 竜二
あー、ったく予知夢ってのは凄いもんだなー。俺が他のやつの悪夢見せている間に地面掘って抜け出すのも黎が最後に捕まるのもお見通しってか。
蓮水 黎
右京……ありがとう。
銀鏡 右京
全然気にしないで。黎君は僕の友達で友達じゃないんだから。
少し不思議なことを言った銀鏡君に何か懐かしさを感じたのか蓮水の口元が緩んだ気がした。
それにしても、神々の地面を掘ってあの山を抜け出すって発想が凄いと思う。
たしかに芝生なら掘れないこともないけど…
霧雨 珠璃
生き残ったのはたったの11人ねぇ。
胡蝶 結弦
まぁ、次のゲームやるよ。その怪我人こっちに渡して。
結弦が私が背負っている澪織を指した。
私は大人しく結弦に背を向けると、結弦は私の背中から澪織の腕を引くと軽々と担ぐ。
そして、珠璃に小さな声で何か話しかけると珠璃は指でOKサインを出し、端末をいじり始めた。
すると、私の意識は一瞬で遠のいていった……。




















先生
……や…おい…しゅ…や……終夜。
終夜 渚紗
!……はっ、はい。
先生に呼ばれて私は飛び起きた。
黒板に書かれている英文と私が手に持っているシャーペンと書いているノートを見て思わず固まる。
何でこんなところで授業を受けているのか。
さっきまで走り回っていたのに。
次に物凄い違和感を抱いたが、その答えは周りを見ればスグに分かった。


抱いた違和感、それは私と蓮水以外の机が1つも無いことだった。
教室の真ん中に並べられた私と蓮水の机。
周りには机も椅子も無い。
隣の蓮水も寝ていたのか起こされ、周りを見て、私と同じように固まっていた。
先生はこれが当たり前のように「全く…」と呆れたように声を漏らすだけ。
先生
あのなぁ、お前らが両方寝てたら俺、授業する必要なくなるだろう。
終夜 渚紗
え…ほ、他の人達は?
先生
終夜、まだ寝惚けてるのか?元からこのクラスはお前ら"2人だけ"だろ。
終夜 渚紗
2人だけ…
蓮水 黎
…寝てすいませんでした。続きの授業をお願いします…。
横目で蓮水を見ると、目で合わせとけと訴えかけてくる。
私も軽く謝ったところで授業は再開。
そして、そのあとは昼休みの時間になっても誰も来ないこの教室で私と蓮水は机をくっつけて無言でご飯を食べていた。
沈黙が10分程続くと、流石にこの沈黙に耐えられなくなったのか蓮水が口を開く。
蓮水 黎
…何であいつら、消えたと思う?
終夜 渚紗
さぁ…でもいろいろと変だよ。前にゲームで2日経ったときは4時間くらいしか経ってなかったのに今度は4日も過ぎてる。
蓮水 黎
時間の流れがおかしいのか、それとも俺達の頭が変なのか…
その時、私と蓮水の携帯の着信音が同時に鳴った。
持っていたパンを置き、スマホを取り出すと受け取ったメールを確認する。
確認すると、私達は顔を見合わせ蓮水は教室のドアの鍵を閉め、私はハサミを片手に窓際まで行くとカーテンを切り取って結び始めた。
やがてコンコン、とノックの音がして、ドアを開けようとする音が聞こえるが蓮水が鍵を閉めたからもちろん開かない。
女子
あれ?開かない。
女子
えー、何でー?
女子
さぁ…終夜さん、蓮水君。ちょっと用事あるからここ開けて〜。
終夜 渚紗
よしっ、出来た。
結び終わって窓からカーテンで作ったロープを下ろしたところで振り向くと、蓮水が私に向かってリュックと手を差し出していた。
その肩には透明マントを半分被ったクロが口から小さな火の粉を吐いて、楽しそうな様子でいた。
私はクロを見た後に蓮水を再び見ると、何も言わずに蓮水の手を握り、リュックを取る。
終夜 渚紗
勝つよ。
蓮水 黎
もちろんだ。
そう言うと、私達は窓からロープに捕まって、教室から抜け出したのだった。

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