私達が辿り着いたとき見たのは地に膝をつき、蓮水に何かを言っている澪織と澪織の背中を狙う杜若君と固まっている蓮水の3人。
隣で走りながら巫が「響いないし…」と少し驚いたように言った。
きっとここに響もいるはずだったのだろう。
段々と近付いて来た時、杜若君が手を振りあげた。
その瞬間…
初めて聞く怒鳴り声に近い蓮水の大声。
走り出した蓮水は二人の元に急いで向かう。
風で髪が分けられ、しっかりと見えたその表情は私が初めて見る蓮水の表情で、何かと葛藤したような表情をしていた。
二人まであと少しというところで澪織に向かって、手を伸ばすと澪織の手を掴み引っ張った。
その時、私は蓮水とあのお兄さんの姿が重なった。
私が叫んでも既に遅い。
同じように姿が重なったのか、蓮水を見て目を見開いた後、力を振り絞り澪織の伸ばした手は残念ながら空を切り蓮水に届くことはなかった。
杜若君が触ったのは身代わりの蓮水の背中。
蓮水の姿が消えたとき、私達は思わず立ち止まって3人から2人に減った戦場を見ていた。
このままじゃ、私も死ぬ……
そう思った刹那、空に手を伸ばしていた澪織が再び息を吹き返したように動き出し手にしたお兄さんのナイフを思いっきり杜若君の足の甲に突き立てて全体重を乗せた。
流石に気を緩めたのか杜若君が呻き声を漏らして、澪織を鋭い目付きで睨む。
だが、澪織の視線は杜若君ではなく立ち尽くす私達の方に向いていた。
そう言うと、巫は走り出して杜若君が澪織の背中をタッチしようとしたのを間に入って阻止した。
そして、振り向くと懐から1つのタガーナイフを取り出して、肩、脚、脇腹と連続で刺す。
杜若君に抵抗され殴られようが、巫はビクともせず攻撃を加える。
私が走り出して杜若君の後ろに近付いて来た時、巫がナイフを手放し杜若君の両手を掴む。
私はそう告げると、杜若君の背中を触った。
目の前から一瞬にしてその大きな姿は消えて、巫と血に伏せる澪織だけが見える。
気を張りすぎたのが尻もちをついた私を見て、あと約数分後に死ぬ巫は笑った。
…いや、私もこれから死ぬんだった。
こう話してみると、巫は巫で知らないことが沢山あるんだなって思う。
こんなゲームじゃなく普通の高校生として。
またいつか会えることを信じたい。
そんなことをぼんやりと考えていると、高い見えない天井から珠璃の声が聞こえてきた。
私は珠璃にそう言われて、瞼を閉じた……。
〜数分前〜
裏切り者のせいで牢に送られた俺はトルスタヤにナイフで深く突き刺された足の甲を押さえた。
周りに何人かダイヤの捕まっている人がいるが、今の俺にはどうでも良い。
ただどうすればこの場から抜け出すことが出来て、生き延びることが出来るかを考えていた。
すると、後ろの方から「ふっ」と俺を鼻で笑うような声が聞こえてきた。
死を覚悟した目でハッキリと樹神響は言った。
あのとき…自己紹介のときに見た仲間に対する意識は例え我が身を滅ぼそうとも捨てないとても頑丈なものだったのか。
友に命を捨てろと言い、合わせた巫も巫だ。
本当に楽しかったのか樹神響はあと数分後に消える命を知りながらも少し笑った。
思い出を懐かしむ表情で。
この行動こそがお前にとっての正しい行動か。
だが、それは俺には理解しがたい。
そんな顔を俺がしていたのか樹神響は俺を見る。
言葉を返そうとしたとき、天井から霧雨珠璃のカウントダウン開始の声が聞こえてくる。
カウントダウンが始まってようやく俺は今から死ぬのだと実感した。
気付けば血だらけの拳で牢を殴り付けていて、その行動に俺は思わず固まる。
何故、俺はこんなことをしている?常に死は横にあったから覚悟は出来ていたはずだろう。
……いや、覚悟はしていても本心は生きたいのか。
いきなり口に出された名前に俺は驚く。
樹神響は最初から主催者を知っていたのか、それは俺には分からないことだ。
樹神響の表情にふざけはなく本気で今の名前の奴が主催者だとこいつは言っている。
その声が聞こえた瞬間、天井から銃弾の雨が俺達に降り注いだ。
最期に見たのはあの戦場で生き抜いた仲間達の表情で物凄く懐かしく感じる。
もう一度、あの頃に戻りたい…。
そう思った刹那、降り注ぐ銃弾の雨の中の1つが俺の眉間に命中したのだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。