第55話

重なる姿
792
2019/10/20 09:06
私達が辿り着いたとき見たのは地に膝をつき、蓮水に何かを言っている澪織と澪織の背中を狙う杜若君と固まっている蓮水の3人。
隣で走りながら巫が「響いないし…」と少し驚いたように言った。
きっとここに響もいるはずだったのだろう。
段々と近付いて来た時、杜若君が手を振りあげた。
その瞬間…
蓮水 黎
待て!!!!!
初めて聞く怒鳴り声に近い蓮水の大声。
走り出した蓮水は二人の元に急いで向かう。
風で髪が分けられ、しっかりと見えたその表情は私が初めて見る蓮水の表情で、何かと葛藤したような表情をしていた。
二人まであと少しというところで澪織に向かって、手を伸ばすと澪織の手を掴み引っ張った。


その時、私は蓮水とあのお兄さんの姿が重なった。
終夜 渚紗
蓮水!!!
私が叫んでも既に遅い。
同じように姿が重なったのか、蓮水を見て目を見開いた後、力を振り絞り澪織の伸ばした手は残念ながら空を切り蓮水に届くことはなかった。
杜若君が触ったのは身代わりの蓮水の背中。
蓮水の姿が消えたとき、私達は思わず立ち止まって3人から2人に減った戦場を見ていた。
終夜 渚紗
嘘…
このままじゃ、私も死ぬ……
そう思った刹那、空に手を伸ばしていた澪織が再び息を吹き返したように動き出し手にしたお兄さんのナイフを思いっきり杜若君の足の甲に突き立てて全体重を乗せた。
流石に気を緩めたのか杜若君が呻き声を漏らして、澪織を鋭い目付きで睨む。
だが、澪織の視線は杜若君ではなく立ち尽くす私達の方に向いていた。
終夜 渚紗
…巫。
巫 悠真
ん?
終夜 渚紗
やるよ。あの人見知り蓮水が頑張ったんだから私達もやろう。
巫 悠真
!……勿論だよ。僕が動き止めてあげるから渚紗ちゃん、決めて!
そう言うと、巫は走り出して杜若君が澪織の背中をタッチしようとしたのを間に入って阻止した。
そして、振り向くと懐から1つのタガーナイフを取り出して、肩、脚、脇腹と連続で刺す。
杜若君に抵抗され殴られようが、巫はビクともせず攻撃を加える。
私が走り出して杜若君の後ろに近付いて来た時、巫がナイフを手放し杜若君の両手を掴む。
巫 悠真
渚紗ちゃん!行け!!!
杜若 冴祐
くそ…っ!!!
終夜 渚紗
…同盟破ってごめんね、杜若君。私にはどうしても君の正義が理解できなかったんだ。
私はそう告げると、杜若君の背中を触った。
目の前から一瞬にしてその大きな姿は消えて、巫と血に伏せる澪織だけが見える。
気を張りすぎたのが尻もちをついた私を見て、あと約数分後に死ぬ巫は笑った。
…いや、私もこれから死ぬんだった。
巫 悠真
やったね、大成功だよ。
終夜 渚紗
うん。
巫 悠真
これなら響も喜ぶ。まぁ、これから死ぬわけだけど最後に何か聞きたいこととかあったりする?
終夜 渚紗
私も死ぬけどね…なんだろ。こんな人生の終わり方で良かったの?
巫 悠真
うん!大満足!響に出会うまで意味の無い15年だったけど、その15年は響にいろんなことを教えたのとこの21ゲームで逢ったみんなとの思い出で溢れそうなくらい満たされたよ。
終夜 渚紗
そっか…ねぇ、巫。今度、もし生まれ変わったならまたみんなで会おうよ。次に会う時はこんなゲームの中じゃなくて、ちゃんとした街で。同じ東京なんだからさ。
巫 悠真
いいね〜、まぁ転生してみんな東京に生まれればいいけど。
終夜 渚紗
あ…確かに。
巫 悠真
でも、会うのは賛成だよ。きっと転生しても僕はみんなのこと忘れたりなんかしないから。
終夜 渚紗
どこで会う?覚えてればいいけど。
巫 悠真
あそこ!何だっけ?渋谷?パリピってやつしてみたい!
終夜 渚紗
何か勘違いしてると思う…まっ、いいんじゃない?渋谷でも。死んだら響と蓮水に伝えるすべがないけど、それはきっとどうにかなるということにしとこう。
巫 悠真
だね。
こう話してみると、巫は巫で知らないことが沢山あるんだなって思う。
こんなゲームじゃなく普通の高校生として。
またいつか会えることを信じたい。
そんなことをぼんやりと考えていると、高い見えない天井から珠璃の声が聞こえてきた。
霧雨 珠璃
『8時間経過まであと10秒!9ー8ー7
ー6ー5ー4ー3ー2ー1ー…』
終夜 渚紗
それじゃ、今までありがとう。
巫 悠真
こちらこそ、ありがと!
霧雨 珠璃
『0!処刑執行!……おっ、2回目の処刑でKが死亡しました!ルールに従ってその国の国民を巻き添え死です!』
私は珠璃にそう言われて、瞼を閉じた……。
























〜数分前〜
杜若 冴祐
っ……
裏切り者のせいで牢に送られた俺はトルスタヤにナイフで深く突き刺された足の甲を押さえた。
周りに何人かダイヤの捕まっている人がいるが、今の俺にはどうでも良い。
ただどうすればこの場から抜け出すことが出来て、生き延びることが出来るかを考えていた。
すると、後ろの方から「ふっ」と俺を鼻で笑うような声が聞こえてきた。
???
…諦めるんだな、杜若冴祐。
杜若 冴祐
お前は…
樹神 響
樹神響だ。もうこの時間じゃ誰が助けに来ても間に合わない。諦めて、処刑の時間を待て。
杜若 冴祐
聞きたい、あの巫はどういうことだ。
樹神 響
俺が頼んだ、"渚紗と蓮水が落としたいKを落とすことに手を貸せ"って。
杜若 冴祐
それでアイツはOKしたのか…
樹神 響
した。
死を覚悟した目でハッキリと樹神響は言った。
あのとき…自己紹介のときに見た仲間に対する意識は例え我が身を滅ぼそうとも捨てないとても頑丈なものだったのか。
友に命を捨てろと言い、合わせた巫も巫だ。
杜若 冴祐
そこまでする必要があったのか?
樹神 響
俺は頼れるはずの家族に捨てられた。で、拾ってもらったのが死にかけの馬鹿だ。こんな性格だから友達一人出来やしない。そんな中、出逢ったのがアイツらだ。例え人が死のうとも俺は今までで一番楽しい時間を過ごせた。その恩返しだ。
本当に楽しかったのか樹神響はあと数分後に消える命を知りながらも少し笑った。
思い出を懐かしむ表情で。
この行動こそがお前にとっての正しい行動か。
だが、それは俺には理解しがたい。
そんな顔を俺がしていたのか樹神響は俺を見る。
樹神 響
意味不明、って顔してんな。アンタに俺の行動が理解出来ないように、澪織もアンタの行動が理解出来なかったんだろうよ。そして、同盟を裏切りたくなった渚紗と蓮水もな。
杜若 冴祐
俺の信じた正義の何処が間違っているというのだ。
樹神 響
全部だ、俺もアンタが嫌いだ。
言葉を返そうとしたとき、天井から霧雨珠璃のカウントダウン開始の声が聞こえてくる。
カウントダウンが始まってようやく俺は今から死ぬのだと実感した。
気付けば血だらけの拳で牢を殴り付けていて、その行動に俺は思わず固まる。


何故、俺はこんなことをしている?常に死は横にあったから覚悟は出来ていたはずだろう。
……いや、覚悟はしていても本心は生きたいのか。
樹神 響
最期に面白いこと教えてやる。
杜若 冴祐
何だ。
樹神 響
この21ゲームの主催者は ─────
いきなり口に出された名前に俺は驚く。
樹神響は最初から主催者を知っていたのか、それは俺には分からないことだ。
樹神響の表情にふざけはなく本気で今の名前の奴が主催者だとこいつは言っている。
樹神 響
驚いたもんだ。主催者って案外近くにいたんだなって俺も思ったさ。
杜若 冴祐
待て、つまりあの中の…
樹神 響
時間切れタイムオーバー…だな。
霧雨 珠璃
『0!処刑執行!!!』
その声が聞こえた瞬間、天井から銃弾の雨が俺達に降り注いだ。
最期に見たのはあの戦場で生き抜いた仲間達の表情で物凄く懐かしく感じる。
もう一度、あの頃に戻りたい…。
そう思った刹那、降り注ぐ銃弾の雨の中の1つが俺の眉間に命中したのだった。

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