抉られた木があった方向から少しボロボロになった澪織が飛び出してきたと思うと、巫に作ってもらった私と同じナイフから刃が飛び出す。
その糸は周辺の木を丸く囲むように引っかかり、柄を投げると神々に切り込む。
避けて勢いを使って、投げ飛ばされていたが糸に着地するように沈むとその反動でさらに速いスピードで切り込み、少し触っただけで神々は小さく呻き声をあげた。
作戦を完全に壊そうとしている澪織に声をかける。
頭にきているか話しているのは日本語じゃない。
と言って、私はロシア語を話せるわけでもない。
そして、脇腹を押さえて反撃に出ようとしている神々に突っ込んで攻撃をしようとしたとき…
背後からそう蓮水の声が聞こえたかと思うと、空中で澪織の体は止まってふわふわ浮いていた。
隣まで来た蓮水が人差し指を動かすと、浮いていた澪織が地面に降ろされて、手をかざし掌を下にして腕を下げると神々の周りの地面がビキッと音を立ててめり込んだ。
何が面白いのか再び神々がくっくと喉を鳴らす。
蓮水は数秒間、止まっていたが腕を下げた。
重さから解放され、ぴょんぴょんとその場をジャンプする神々。このままいても逃げられる。
そう思った私は話を切り出した。
神々が澪織を担ぎ、私達に参加者リストを見せる。
「どれ潰せばいい?」と言われて私は私達のグループと煮雪君以外を指した。
一青さんを含む3人の顔写真を見て、名前を呟き、軽く頷くとキョロキョロと周りを見る。
上空を過ぎた陽向達のペットのハヤテを見た神々が走り出す。
観念したのかここまではっきり聞こえるほど大きな舌打ちをして澪織が神々から無理矢理降りると、その後を追って茂みに入り見えなくなった。
やがて、他のみんながやって来る。
巫は少し拗ねているようだったが、傷は陽向によって完全に治されていた。
上手に話が進んだことをみんなに話すと、勝てると確信したのか会話の内容がトゲトゲしいものから移動中とかにしていた普通の内容に戻る。
ピッーーーーーーーー!!!!!
大きく鳴り響いたブザー音。
そのブザー音が聞こえたと思うと、見えない天井から「ザッ…ザザッ…」とマイクを繋ぐ音がした。
「終了、最初の場所に戻って来て」と短く要件を伝えて放送は終わる。
蓮水を見ると、既に地図を持っていて現在地を確かめていた。
そして、地図を頼りに最初の場所まで戻るとそこには進行役の3人がいた。
木々の間から頭の後ろで手を組んでいる神々と澪織を背負う煮雪君が歩いてくる。
煮雪君は呆れたような顔で神々を見た後に大きな溜息を零した。
姿を確認して結弦が端末を操作し始める。
いきなり現れたドアが開くと、そこは赤と青の垂れ幕に「ゆ」と書かれた入口が2つ。
珠璃に急かされて響が煮雪君から澪織を引き取り中に入ると脱衣所があって、そこは温泉だった。
脱衣所には洗濯機が置いてある。
そう話すと、私達は温泉に入って久しぶりの温かいお風呂に体を温めたのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!