しばらく歩くと再び白い扉を見つけた。
クロを透明マントで包んでフードに入れてから中に入ると、男女の2人がいる。
ここでも何かミッションがあるのか、そう思い私がため息を漏らしたところで再び現れたのは珠璃。
珠璃の手にはポテチの袋と紅茶のペットボトルが握られていた。
珠璃がポテチを持った手で示した方を向くと、壁にさっきと同じ文字が映し出された。
『静音の間』
ただただ音を発しないだけ!
【ルール】
・とにかく音を出さないでね〜
・途中で妨害とかいろいろあるかも?
・2人死亡で終了!
【注意事項】
・まぁ、音を出さないって言っても完全には無理だからそれは程々に判定する!
さっきに比べて物凄く簡単に見えてしまう。
ただ黙って、妨害を静かに避けるだけでこのミッションはクリアになる。
珠璃が飲み物とお菓子を持っていると言うことは長い戦いになるのを見込んでいる。
そんなのは本来の目的の大迷宮からの脱出に大きなリードを他のペアに与えるからしないはず。
なら、スグに終わるってこと?
長くなりそうなのに?
そう考えていると、1分くらいが経ちさすがに全員が読み終わったにも関わらず珠璃は黙ったまま。
すると、相手チームの男子が…
男子の困った声に少し笑いの感情がこもった声で返事をした珠璃。
私達も本人も珠璃の言っている意味が理解出来ず、ただただ首を傾げるだけだった。
「君はもう終わり」
その言葉はどう聞いてもそこの男子は何かしらやらかして死ぬと言いたいようにしか見えない。
顔文字のようなウィンクと敬礼を珠璃がした瞬間、声を出した男子の体が爆発して飛散した。
壁にペチャ、と音を出して肉片や血が飛び散り、それはもちろん私達の方にまで飛んできた。
足元に転がるビー玉のような眼球。
壁の端まで飛んだ新鮮な臓器。
今までで一番精神的なダメージかもしれない。
そう思うと、私はそっと静かに手で口を押さえた。
駄目だ…少しでも声を上げたら死ぬ…。
あと1人…あの女子がどうにかして声を出すか、物音を立ててくれたらミッションは終わる…。
どうしよう、そう考えたとき壁に表示されている1つのルールが目についた。
『途中で妨害とかいろいろあるかも?』
妨害、どんなことをされるのかは想像がつかないが少しでも終わる時間を早めて、この血の臭いのする部屋から1秒でも早く出たい。
その一心で私は訴えるような視線を珠璃に向けた。
空中に手を伸ばして何かを引っ張って来ると、大きなルーレットが現れた。
毛虫、火炙り、水責め、電撃、皆様お嫌いな○○…
何種類かに分けられるルーレットの内容はどれもいい気持ちになるものではない。
小さく頷き、陽向がルーレットをじっと見つめる。
すると、ルーレットが回り出した。
想像以上に回るスピードは早く狙って止めるとか、そういう希望は持たない方がよさそうだ。
陽向は少し難しそうな顔をしながら、口元が止まれと口パクで動くと凄い勢いで回っていたルーレットがピタリと止まる。
ガチャン、と音がして天井から火炎放射器が出現。
機械音を鳴らしながら標的を陽向に定める。
私のフードがモゾモゾと動きその瞬間、私は陽向を助けるいいことを思いついた。
ファンタジーの世界だから実際にこの世界で出来るかどうから分からないけど試す価値はある。
そう思い、私はそっとフードに手を入れて何回か中にある塊に触った後、陽向を指す。
フードから小さな両手に透明マントを掴むクロが出て来て、陽向と火炎放射器を交互に見た後に私のことを見る。
慌てて頷くと、クロは陽向と火炎放射器の間に向かって飛んだ。
火炎放射器の先から赤い炎が噴射された瞬間、クロが口を開けたと思うと瞳と同じピンク色の炎が勢いよく吐き出された。
陽向は口を塞いでその場にしゃがみ、女子は有り得ないものを見るような目でクロを見る。
やがて、火炎放射器から炎が出なくなると、クロは尻尾でその火炎放射器を叩き壊した。
珠璃に促され、齋藤さんと呼ばれた女子が物凄い震えている手で口を押えながらルーレットを回す。
クルクルと回転するルーレット、やがて止まると出たのは『毛虫』で珠璃はそれを見て「おぉ!」と嬉しそうに笑った。
結弦が持っていたのと同じ端末を手にした珠璃がそう言って端末を操作すると、部屋の中心に穴の空いた黒い柱が出てきた。
全員がその柱を警戒して静かに数歩下がる。
その瞬間、柱に空いていた穴から毛虫がどんどん部屋の中に放たれていく。
放たれた毛虫はウヨウヨと気持ち悪く動きまくり、私達の足元や男子の死体にまで来た。
虫がダメなのか涙目で必死に声を漏らさないように頑張る齋藤さん。
30秒程で柱は地面に戻ったが、毛虫は床で動いたままだった。
珠璃は「やっば、消すの考えてなかった。」と想定できるはずのことを言う。
ルーレットが回転し出す。
狙うのは『皆様お嫌いな○○』だ。
電撃も水責めもよけられるようなものじゃない。
それなら、何なのかは分からないけど、その嫌いな何かに賭けるしかない。
私はそっと瞼を閉じる。そして…
止まれ。
その一言を頭の中で唱え、ゆっくりと瞼を開けた。
『皆様お嫌いな○○』
矢印が示す妨害の名前を見て、私はほっとする。
反応を見ようと珠璃を見ると、何とも言えない表情で苦笑いを浮かべていた。
カウントが0になった瞬間、齋藤さんの悲鳴がついさっきまで静かだった部屋に大きく響いた。
原因は部屋に入って来た大量のあの茶色い虫。
そう、通称"G"ことゴッキー。
そりゃ、ゴッキーが大好きなんて人はよっぽどの変人じゃない限りいないだろう。
珠璃のあの反応も十分説明がつく。
齋藤さんが声を出したことにより、失格。
死に方はまさかのゴッキーに食い尽くされるという何とも惨い…酷い死に方だった。
相手チームの2人が死んだことで私達の勝利。
先に進もうとしたが、鍵が開かない。
不思議に思い、珠璃を見るとそこにいたのは珠璃ではなく結弦だった。
『仲間探し』
新しい仲間を探してきてください。
その仲間は戻って来てからのゲームに共に参加することになります。
【ルール】
・高校2年生を1ペアにつき1人をつれてくること。
・男女は問わない。
・期限は戻ってから24時間。
【注意事項】
・21ゲームのことは誰かに話すのは禁止です。
・言った場合は失格と見なします。
最初に私と陽向の交換。
そして、陽向に海凪の連絡先を送ったところで私の意識は遠のいていった。
次に覚めると見慣れた天井が視界に入る。
どうやら、私の部屋のようだ。
スグに時計を確認するとちょうど正午。
21ゲームが始まってからまだ1日も経っておらず、私がゲームに参加した日と全く同じ日だった…。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。