第27話

地下の猛者
1,408
2020/03/07 06:24
歩く女子を追いかける蓮水に追いつくと、私は透明マントを取って蓮水を止めた。
すると、何で止めるんだよって言いたそうな表情で私を見てくる。
それでも、私は今回ばかりは場所的にもヤバい気がして止める。
終夜 渚紗
これバレたらヤバいんじゃ…!?
蓮水 黎
普通に会えるわけないだろ。
終夜 渚紗
そうだけど…
蓮水 黎
なら、強行突破。あの…
女子
はい?誰ですか?
終夜 渚紗
え、えっと…ちょっとどうしても話したいことがありまして…少しだけ話をいいですか?
そのとき、廊下の奥から足音が聞こえてきた。
まだ理解をしきれない女子が咄嗟に私と蓮水をすぐ近くの扉の奥に押し込んだ。
入ったのは武器倉庫で手をついたときの目の前には矢の先があって、息を呑む。
蓮水は上手い具合に受身を取って、スグに廊下の外の会話を聞こうとしていた。
男性
誰かいなかったか?
女子
何のこと?
男性
今、男と女の声が…
女子
さぁ?きっと観客席が盛り上がっているだけでしょ?さっさと次の試合の準備やっちゃってよ。みんな、楽しみにしてるんだから。
男性
ああ、そうだな。
女子
よろしく!
足音が去ったところで扉が開く。
そこには銀色の髪を青のリボンで一つにして、水色の瞳を片目だけ見せる女子。
服装はへそ出しタンクトップに緩めの黒いパーカーを羽織って短パンとラフな格好。
腹筋は一見はなく、ただの何処にでもいそうな女子高生だ。
女子
いきなりごめんなさいね?私の控え室でお話しよ?
終夜 渚紗
ありがとう。
彼女に連れられ『Champion控え室』と書かれた部屋に入ると、大量の菓子と戦闘系ゲームが置かれていてもはや自分の生活部屋だった。
「そこら辺に座って。」と言われ、私はソファに座り蓮水は無視して端に立つ。
そして、彼女はベッドにダイブしたところで話を切り出してきた。
女子
こんな見つかれば殺されちゃうようなことまでして私に用って?あ、まずは名前を聞きたいかな。
終夜 渚紗
私は終夜渚紗。で、そいつは蓮水黎。なんて呼んだらいい?
槐 澪織
私はえんじゅ澪織みおり!別に呼び方は何でもいいかな?
終夜 渚紗
え、日本人?
槐 澪織
ううん、ロシアと日本のハーフだよ。お母さんが日本人なんだ〜
終夜 渚紗
そっか。ねぇ、CRUSHFIGHTって何をやってるの?
槐 澪織
ChallengerがChampionに挑戦する一種の賭け事。betする人はどっちが勝つかってね?世界各国からいろんな人が集まってるんだよ。
終夜 渚紗
それって正直…犯罪じゃない?
槐 澪織
まぁね。でも、暇潰し程度にはなるから別にいいかなって思ってる。
終夜 渚紗
澪織はいつから?
槐 澪織
去年の春から。
終夜 渚紗
どのくらい勝った?
槐 澪織
全戦全勝!
終夜 渚紗
一日の試合数は?
槐 澪織
日によって違う。まぁ、通算…5000戦くらいはいってるんじゃない?
終夜 渚紗
5000!?
槐 澪織
だって、毎日あるし夏休みとかは学校ないから一日中やってるもん。でも、そろそろ強い人がいなくなってつまらないんだよねぇ…
終夜 渚紗
ちなみに今、何歳?
槐 澪織
17歳、高校2年生!
終夜 渚紗
高校2年生…ね、蓮水。
蓮水 黎
ああ、条件は当てはまってる。
槐 澪織
条件?
澪織が不思議そうな声を出した時、私と蓮水のスマホが同時に着信音を鳴らした。
断りを入れてスマホを見ると、21ゲームからメールが1件届いていた。

【鵬磨高校 終夜 渚紗様、蓮水 黎様】
『仲間探し』の契約条件です。
仲間候補の方に必ず契約前にお見せ下さい。

・御本人の意思がある場合のみ契約が出来ます
・生徒手帳を所持してください
・21ゲームについての説明をプレイヤーから聞いた上で意思確認の方をお願いします

以上の契約条件を全て承諾し、21ゲームに参加する意思がある場合は明日の正午丁度に仲間になるプレイヤーのどちらかと待機してください。
終夜 渚紗
…私達の仲間になって欲しいの。
槐 澪織
仲間?
終夜 渚紗
うん…。今私達は死ぬ可能性があるゲームで仲間を1人連れてこいって言われてて、それでその仲間になってもらえないかって思って来たんだ。
槐 澪織
死ぬ可能性って?
終夜 渚紗
全国の2年1組で行われてるゲーム。負ければ死ぬ、勝てば生きる。本当に単純なんだけど、力がいるわ頭がいるわで強い人を探していた。
槐 澪織
じゃあさ!じゃあさ!その中に強い人っている?いたらその人と戦えるかもしれないって可能性もある?
終夜 渚紗
まぁ、あるかも?
槐 澪織
なら、いいよ!仲間になる!
終夜 渚紗
えっ。
蓮水 黎
え…
「放課後、遊びに行こー」「いいよ!」くらいのノリでOKを出した澪織。
それには流石の蓮水も声を漏らす。
ワクワクしたような楽しみにしているようなそんな目をキラキラと輝かせている澪織を見ていると、何処か巫の姿と重なった。
巫と重なるともう大体の性格は予測出来る。でも、一応聞いといた方がいいかな。
終夜 渚紗
いいの?死ぬかもなんだよ?
槐 澪織
人間、誰でも最後は死ぬんだから、それが早くなるかどうかの問題!強い人と戦えるなら行く!
蓮水 黎
何かアイツに似てんな…
終夜 渚紗
こういう死を恐れない人だから強いんだろうね。
槐 澪織
そうかな?あ、実はね!私は故郷で名を上げたほうなんだよ!
終夜 渚紗
どんなことで?
槐 澪織
それは秘密〜。まっ、細かいところはいいじゃん?
終夜 渚紗
まぁね。
槐 澪織
時間ってどのくらいかかる?
終夜 渚紗
何日もかかるんだけど、時間が歪んでるみたい。私、3日くらい21ゲームを体験したけど戻って来たらゲームが始まった日と同じだったから…
槐 澪織
へぇ!そんなことあるんだ〜
そのとき突然コンコン、とノックの音が聞こえると澪織は「はいは〜い?」と返事をしながら、私達に視線を移すとソファの後ろとベッドの後ろを指す。
私はソファの後ろへ、蓮水はベッドの後ろに隠れたところで控え室のドアが開いた。
槐 澪織
What is it?
(何かあった?)
男性
It's time for the next match.
(次の試合の時間だ。)
槐 澪織
Roger that! I'm going now.
(了解!今行くよ。)
男性
I'm expecting this match.
(今回の試合も期待してる。)
槐 澪織
Thank you!Of course I will do my best!
(ありがとう!もちろん頑張るつもりだよ!)
男性
Good luck.
(ご武運を。)
終夜 渚紗
………やっといなくなった…。
槐 澪織
渚紗?私は何時にどこに行けばいい?
終夜 渚紗
正午に、だから…11時半くらいに私の家に来て欲しいかな。今、携帯ある?
槐 澪織
うん!
終夜 渚紗
じゃ、連絡先交換しとこ。
澪織がベッドの上に投げられていたバッグの中から迷彩柄のスマホを取り出す。
連絡先を教えると、私は澪織に住所を送る。
ちゃんと確認出来たのか「OK!」と発音良く言って澪織はスマホをベッドに投げた。
終夜 渚紗
じゃあ、取り敢えず私と蓮水は帰ろうかな。
蓮水 黎
どうやって?
終夜 渚紗
はい?
蓮水 黎
見つかったら殺されるとか言ってなかったか?
終夜 渚紗
あっ……
槐 澪織
そりゃ、殺されるでしょうね〜。今までこの部屋に来た人みんな殺されちゃったから。
終夜 渚紗
う、嘘だよね?
槐 澪織
本当に。でも、大丈夫!そこのベッドの下にある隠し通路から出れば誰にも気付かれずに抜けれるから!
終夜 渚紗
使っちゃっていい?
槐 澪織
いいよ。じゃ、また明日!
終夜 渚紗
ありがとう、澪織。
澪織が他の人に怪しまれないように電気を消して、部屋を出て行く。
廊下に足音が聞こえなくなってから私と蓮水はベッドの下の隠し通路から外へ。外はビル近くの公園の植物に隠されるようにされた扉に繋がっていた。
終夜 渚紗
何か…凄い話が通じる子だったね。
蓮水 黎
そうだな…てっきり、あの闘技場で勝てばいいよとか言い出しそうとか思ってたんだけど。
終夜 渚紗
澪織なら言いかねない…
蓮水 黎
まぁ、ともかく良かった。地下闘技場で無敗の女子高校生なんてそうそういるもんじゃない。
終夜 渚紗
仲間が増えたことで生き残れたらいいけどさ。
蓮水 黎
それは終夜の運次第さ。
そんなことを話しながら私達は駅へ。
私が家に帰った頃にはもう23時を過ぎていて、お母さんにとんでもなく怒られた。
謝った後の夜ご飯中に今日のことについて聞くと、お母さんは不思議そうに「今日は午前授業って言ったの渚紗じゃない。」と言われた。
どうやら、聞く限りだと私は午前授業で帰って来て眠いからって言って寝てたらしい。
何がどうなってるのか全く分からないけど…
21ゲームに勝って、早くこの世界に戻って平和な日々に戻る、ただそれだけの話だ。
そのような考えに辿り着くと、私はずっと寝ていたベッドに潜り込み、眠りについたのだった…

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