「残念だけど、そうはならないんだよね。」
「絶対なる、間違ってんのはお前だ。右京。」
「相変わらず黎君は諦めが悪いなぁ…」
「何だ何だ?お前ら、また喧嘩してんのか?」
「喧嘩じゃねーよ。」
「え?」
「ただのお遊びだ、お遊び。いつも通りだろ?」
「お遊び………ふふっ、そうだね。黎君はお遊びで毎回僕に負けてるってこと。」
「はぁ!?1度も負けてないからな!!」
「はいはい。」
灰と化した右京を複雑な気持ちで眺めながら呟く。
懐かしい記憶が脳裏に蘇って、何だかんだでこいつとは変な縁があると今更思った。
右京と俺ってどんな関係何だ…とか考えてみるもののすぐにどうでも良くなった。
どんな関係なのかが分からないのが俺達で決められた答えはきっとない。
1位争いの“好敵手”かもしれないし、ただの同じクラスってだけの“同級生”かもしれないし、“友達”かもしれない。
別にどれでも良い。全て正解だ。
今の澪織は完全に戦力にならない。
まだ動ける神々が担いでいるか、見つからない場所に隠れているか。
最初についたあのペアが何も行動を起こさないのは少し気になる点だ、人が人だし。
俺と終夜が右京達とぶつかるのを狙った?
それとも他に何か理由が…
…ともかくまずは右京のことを伝える為にも何処かにいる終夜と合流するか。
しゃがみ灰の山に手を合わせると俺はその場を離れ、歩き出した。
合流するまでにアイツらに遭遇しないよう願うのみ。
結局、主催者は誰なんだ?
てっきり初めから参加している参加者の内の誰かだと思ってたけど…その初めから参加している右京と煮雪は死んだ。
敵の神々と澪織は途中からの参加だし…
………となったら、終夜?
終夜を疑ったところで曲がり角から本人が出て来て、俺は思わず後ろに下がる。
何とも言えない表情を浮かべる終夜。
その理由は何となくだけど分かる。
自分達が死のゲームに巻き込んだのに了承してくれた人を今から自分達で殺す、普通に人として最低な行為でしかない。
反応からしたら終夜は主催者じゃない。
それが…雅楽が死んだ時の涙まで全てが騙す為の演技だとしたら。それこそ悪魔だ。
でも、最初からの参加者は俺と終夜のみ。さらに言うと最初にペアを選ぶのは終夜だったから俺をこのゲームに参加させるのは難しくない。
終夜は父さんと関わりがあるのか?霧雨の話の時はかなり驚いているように見えたけど…
それとも他に誰か黒幕が?
クソっ…考え出したらキリがねぇな……
路地から顔を出した黒猫が走り出す同時に終夜が抱いていたクロがその後を追いかけた。
それに釣られて終夜も後を追い、こうなったら嫌でも追わざるを得なくなる。
黒猫が止まったのは大通りに繋がる交差点の手前。
先にクロが追いつき、地面に降りる。
猫とドラゴンの足に人間が追いつくことなく、俺達は距離を縮めようと急ぐ。
不意に大通りの左側から神々の姿が見えた。
赤紫色に腫れあがった左腕を使って両腕で銀色の長髪の女子…澪織を抱えている。
澪織は寝ているのか神々の声に反応しない。
神々は「ったく…」と呆れたように溜息を零すと、抱えていた澪織をその場に降ろして数歩下がった。
スピードを上げた終夜。
俺は自然と走っていた足を止めた。
神々相手だし俺も戦った方が良いんだろうけど、何故かここは終夜に任せるべきだと思ったのだ…。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!