映画館の入口からまっすぐ通路を進み、突き当たりを左に
曲がったところで、まだ綺麗なスクリーンを見つけた。
近くで見ると圧倒されるような大きさのそれは、入口のガラス扉から差し込む明かりを、受け止めている。
一部分だけ反射していて、俺が少し前へ進むと、その部分に
影ができた。
『また誰かがお前を見てる。』
『一人になんてなれないんだよ。』
『お前は許される奴じゃないんだから。』
影を見た、それだけなのに。
一瞬にして頭の中に、そんな声が、言葉が、響き渡る。
そう......、これは本当のことじゃない。
あれは俺自身の影で、こう感じてしまうのは、ただの、俺の
妄想......勘違い、だ......。
そんな風に周りを見てしまっているから、そんな風に感じる。
それだけ──。
なんて、それは分かっているんだけどなあ......。
やっぱり、大人しく病院へ行ったほうが良かったかな......。
──ヴー、ヴー......
不意に、携帯が振動した。
アラームとかを設定していた覚えがないから、多分......。
チャットアプリを開くと、様々なアイコンが表示された。
しばらく見ていなかった間に、何人かの友人のアイコンは変わっていた。
それに少し違和感を感じつつも、通知一覧を開く。
......チャットの送り相手は、悠斗だった。
珍しい......。
普段......、というか最近、こいつとはなかなか連絡をとっていない。
ましてや、向こうから連絡がくる、というの自体、ほとんど
なかったはずだ。
驚きと疑問を覚えつつ、チャット画面を開く。
「話がある。お前のカウンセリングの後、"01-02"の診察室に
来てほしい。」
そこには、たった二文の、それが表示されていた。
相変わらず......、いや、前以上にシンプルな文に思わず苦笑してしまう。
......でも、話って何の──?
当然ながら、会えば分かるのだろうが......。
検討がつかなくて、俺は考えるのをやめた。
携帯のロック画面は、既に、病院に着いておなければいけないであろう時間の、数分前の時刻を表示している。
長く息を吐き出して、悠斗に「わかった」とだけ返信した。
入口の方を振り返る。
ガラス扉越しに綺麗な月が見えた。
それに向かって、俺は歩き出す──。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。