第35話

遠くへ── 3
20
2019/03/31 05:21
映画館の入口からまっすぐ通路を進み、突き当たりを左に
曲がったところで、まだ綺麗なスクリーンを見つけた。

近くで見ると圧倒されるような大きさのそれは、入口のガラス扉から差し込む明かりを、受け止めている。

一部分だけ反射していて、俺が少し前へ進むと、その部分に
影ができた。

















『また誰かがお前を見てる。』




『一人になんてなれないんだよ。』




『お前は許される奴じゃないんだから。』

























影を見た、それだけなのに。

一瞬にして頭の中に、そんな声が、言葉が、響き渡る。
森崎 渉
......違う
そう......、これは本当のことじゃない。

あれは俺自身の影で、こう感じてしまうのは、ただの、俺の
妄想......勘違い、だ......。

そんな風に周りを見てしまっているから、そんな風に感じる。

それだけ──。




なんて、それは分かっているんだけどなあ......。

やっぱり、大人しく病院へ行ったほうが良かったかな......。





















──ヴー、ヴー......
森崎 渉
......っ
不意に、携帯が振動した。

アラームとかを設定していた覚えがないから、多分......。
森崎 渉
チャット......誰から......?
チャットアプリを開くと、様々なアイコンが表示された。

しばらく見ていなかった間に、何人かの友人のアイコンは変わっていた。

それに少し違和感いわかんを感じつつも、通知一覧を開く。
森崎 渉
......チャットの送り相手は、悠斗だった。




珍しい......。


普段......、というか最近、こいつとはなかなか連絡をとっていない。

ましてや、向こうから連絡がくる、というの自体、ほとんど
なかったはずだ。



驚きと疑問を覚えつつ、チャット画面を開く。















「話がある。お前のカウンセリングの後、"01-02"の診察室に
来てほしい。」




そこには、たった二文の、それが表示されていた。

相変わらず......、いや、前以上にシンプルな文に思わず苦笑してしまう。


......でも、話って何の──?



当然ながら、会えば分かるのだろうが......。





検討けんとうがつかなくて、俺は考えるのをやめた。




携帯のロック画面は、すでに、病院に着いておなければいけないであろう時間の、数分前の時刻を表示している。
森崎 渉
ふぅ......
長く息を吐き出して、悠斗に「わかった」とだけ返信した。


入口の方を振り返る。

ガラス扉しに綺麗きれいな月が見えた。




それに向かって、俺は歩き出す──。

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