第11話

目を落とした先で、 5 ― 渉viewp
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2018/12/30 07:31

――前回説明したとおり、俺がそらのことを
"可愛い"とか色々思っても、別におかしくないので。


柚香さんはそらの護衛として俺を連れていかせたんだろうし。


好きなように考えさせてください......。





――――――――――――――――――





てか、ネットで予約してたなんて俺も知らなかった。

看護師は直接やらないといけない手続きとかをすぐ
済ませてくれたし。





今日って、もしかして――。




相川 そら
......それじゃあ、渉。私そろそろ行くね

その声で思考が一旦とまった。

森崎 渉
あ......うん、いってらっしゃい

その言葉でそらはゆっくり歩き出す。

診察室は............『01-02』のようだ。


......ってことは、川嶋か?

あいつって確か、せらも診たやつだよな......。


あんまり信頼性がないんだけど。






......と、1人の看護師が俺に近づいてくる。

看護師
森崎さん、お気づきかもしれませんが、本日は対面日となっております。お部屋まで案内致しますので、ついてきてください
森崎 渉
......はい、ありがとうございます


やはり、そうだったか。







俺とそらが戸籍上だけの"いとこ"という関係なのは、
出産時に入れ違いがあったからだ。

たまたま同じ日に産まれた男児と取り違えられたらしい。


――それに気づいたのは6歳の頃。

何故今まで気づかなかったのか、という感じではあるけど、
すごくはやい方だと聞いた。

普通は、成長しきってから気づくものだ、と。


その段階で、両方の親は俺達を元の家庭に戻せば、と思った。

だけど意外にも友達ができ、環境にもほとんど慣れはじめて
いたので、それをやめることにしたそうだ。


替りに、数年ごとに対面するという条件を設けた。



そしてその日は、俺達には知らされない――。






看護師
......こちらです。坂倉さんは既に中にいらっしゃいますので、このままお入りになってください
森崎 渉
分かりました。案内ありがとうございます

そう告げると、看護師は優しく微笑んだ。


対面日の担当をしてくださるのはいつもこの看護師かただ。

だから心をゆるせる。




......対面相手は、ちょっと心をゆるしたりはできないけど。




坂倉 悠斗
......久しぶり、渉。元気やった?
森崎 渉
......あぁ、おかげさまでな
坂倉 悠斗
え、怒ってんの?どうした

そう言って悠斗は苦笑する。

苦笑というか、本気の笑いが7割くらいに思えるが。


この軽いノリ......ほんと嫌なんだよな。



悠斗は数年前から関西のほうに住んでいると聞いたけど、
たったそれだけで向こうの住人のように変わっている。

こいつの適応力は羨ましいかぎりだ......。
坂倉 悠斗
......それでさあ、さっきまで一緒におったのって、誰なん?
森崎 渉
......え、看護師だろ?
坂倉 悠斗
そうやなくて......

そう言って声を潜め、顔を近づけてきた。
坂倉 悠斗
可愛ええ子!
森崎 渉
......は

......そらのことか?

状況的にそれ以外考えられないけど......。
坂倉 悠斗
......なんかさ、むっちゃカップルに見えたんやけど?
森崎 渉
......なに、嫉妬?
坂倉 悠斗
いやそうやなくて、誰なんかなあ、と。
気になるやん?普通
森崎 渉
......そんなものなのか
坂倉 悠斗
そうやねん!ほら、はやく教えてや!

そんな騒ぐことじゃないだろ......。

てか見られてたとか......最悪............。

まあどうせ
森崎 渉
......お前の、いとこだけど?
坂倉 悠斗
えっ......

悠斗はそう言ってフリーズ。

さすがいとこ。

そらと反応が似てるな。

......にしても驚きすぎだと思うけどな。



あ、俺の予想では、この後うるさいのがきそ
坂倉 悠斗
ええええええええええええ?!
ほらな......。

めんどくさいんだよ、ほんと。
森崎 渉
......うるせえ!病院だってこと考えろ!
坂倉 悠斗
......ご、ごめん、てかまじかよ......うわあ......
森崎 渉
なんだよ......

何故かものすごく引かれてるんだけど......。
坂倉 悠斗
立場を利用して近づくとか......きっ痛い痛い痛い!
森崎 渉
......それ以上言ったら殴る
坂倉 悠斗
はいはい......ごめんなさい

悠斗は先程俺につねられたところを擦りながら続ける。
坂倉 悠斗
......でさあ、その、せらの方がなんか"アイシン病"になった、て聞いたんだけど
森崎 渉
......知ってたのか
坂倉 悠斗
ああ、母さんから教えてもらった。
あ、柚香さんの方な
森崎 渉
そっか......

まさか、知ってたとは。

前会ったのは2年くらい前だし、最近は連絡とかも取り
合ってなかったし、知らないと思ってた......。

ま、知ってるほうが話しやすいけど。
坂倉 悠斗
それでさ、俺いとこなわけだし、俺もなったりしないのかなって......

そういうことか......。

森崎 渉
大丈夫なんじゃないか?まず男子の方がかかりにくいし、いとこはあまり遺伝性ないらしいし
坂倉 悠斗
ほんとか?
そう言うと、悠斗はほっとしたように息をついた。
坂倉 悠斗
ありがとうな。
............って、もう終わる時間やん、結構はやいなあ。じゃあ、また今度な
森崎 渉
ああ。またな

悠斗は相変わらず、せわしなく部屋を出ていった。




......そういえばあいつは、せらが居なくなったこと、
知ってるのか......?






......まあ、直接言うことでも、ないか。

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