――もし。
せら本人が、こうなった原因を知っているなら。
覚えているなら。
せらは、俺が突然言い出したことに戸惑ってる。
急に言われても訳わかんないしな、そりゃそうだ。
せらは膝の上の辞書を再びめくる。
た行のページを開いた。
そのページをゆっくり読むと、せらは言った。
せらは少し悲しそうにページをめくってる。
......ごめんな。
あいつの名前は漢字で1文字だから、せらからしたら書かれてることになるのかも。
でも。
あいつのことは忘れてほしいんだ......。
だから、言えない。
ごめん。
――それからしばらく、ゆっくりとしたペースで話をして。
気づいたら、帰る時間だった。
せら......あいつのこと覚えてるってことは、結構嫌いなの?
俺もあいつは嫌いやわ。(^ω^ )
最後に確認するように名前を言って。
泣きそうな顔でこちらを見つめて。
......俺が演技をしないでいられるのは、君の前だけなのに。
これ以上演じたくないのに。
またこうやって本当の自分を閉じ込めて、笑って。
あとちょっとの最悪な未来から目を遠ざけてしまう。
そんな俺は、どうしたらいいんだろ?
これから。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。