そう言って俺は笑う。
入ってきた渉が、なんか不機嫌そうに見えたから、こっちも
つい、苦笑したみたいになってもたけど。
てか......相変わらず、渉はこのノリが嫌いっぽい。
別に慣れれば気に入らんもんでもないけどなあ......?
まあ、こんなに変わってもたら、さすがに引くか。
だけど、俺だって向こうに慣れるのに必死なんだよ。
......許してほしい。
その場の重めの空気を押し流すように、俺は話題を振る。
何がええやろ......。
とりあえず、近況報告かな。
いつも通りの方が話しやすいし。
そう言って眉を寄せながらも、ちゃんと言ってくれる。
......自覚なしかよ、クソっ。
......だけって。
そう言って俺は笑う。
意外と図星だったから、無理矢理作ったんだが。
......渉はほんとに心配してるみたいな目で見てくる。
......クソっ。
ほんと、そういう優しいとこは認めてやるよ......。
また俺は笑顔を作る。
多分、泣きそうな、ヘッタクソな笑顔になってるはずだ。
なんでって、それは、さっきの渉の顔が、
俺が渉の心配を跳ね返した時の、落胆した彼の表情が、
何故か、せらの落胆した表情と似ていたから。
だから......認めたくなかったけど、さっき、俺を心配する渉が
一瞬だけ、せらと重なってしまったんだ。
この顔は見たくなかったんだけどなあ......。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!