......え?
そのあと、また少し間を置いてせらは話し出した。
それを簡単に話すとこうだ。
2年前、新しく開発された統合失調症の薬。
せらは、その薬の"被検体"としての話が回ってきた。
当然、それには本人とその両親の了解がいる。
でも、先にその話を聞いたせらは、了解をした上で、両親に
話すことを「やめてほしい」と言った。
その理由は教えてくれなかった。
そして、被検体となったせらは、もともと症状が重かったこともあり、病院に入ることになった。
しかし、そこでの暮らしは彼女にとって辛いもので。
それで、しばらく自分を隠してほしいというように頼んだらしいのだ。
......川嶋に。
ゆっくりと、悠斗がそう言った。
そんな短い会話のあと、俺も「ごめん」と「ありがとう」を
言った。
せらは、ただただ頷いて、また同じようなことを言った。
すぐ後ろで、川嶋が小さく息を吐いた音が聞こえるほど静かになって。
せらや悠斗の顔を見て、なんとなくこの後の話題を察した俺は、1人、考え事をしていた。
薄く微笑んだ彼は、小さな声で続ける。
2人が意味深な会話をする中、少し違うテンションの声が
俺に向けられる。
さっきから考えてはいたけど、急に話に入ると思ってなくて、困ってしまう。
少し考えて、俺は余計な説明をなくして、簡潔に伝えることにした。
悠斗の力ない声とともに、その場に短い沈黙が訪れる。
......まあ、俺も伝えるのは戸惑ったけど。
ここで嘘を吐いても仕方ないだろうなって。
そう言った俺の声は、その場の空気に溶け込むように、静かに消えた。
なぜかそらの顔を思い出してしまって、感情を抑えようと、
軽く深呼吸をする。
脳に酸素が送られたのか、少し冷静に慣れた気がした。
やがて、小さな溜息の後に、俺の後ろで声がした。
部屋に取り付けられた時計は、まさに帰らなければいけない
時間を指していた。
どうやら、悠斗もそうらしい。
そんな挨拶を交わすのを懐かしく感じる。
少し恥ずかしいようで、でも嬉しかった。
そんな俺達を、1人の医者が微笑ましそうに、切なそうに、
そんな表情でみていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。