第40話

知りたかった 3
28
2019/06/05 10:01
......え?
坂倉 悠斗
は......?い、今なんて......?
相川 せら
"行方不明"になったのも、病気をいつわったのも、
全部。
......全部、私のワガママみたいなものなの
森崎 渉
え......でも、それは......
坂倉 悠斗
川嶋......先生が、したことなんじゃ──
相川 せら
うん......さっきそう言ったんだけどね。
本当は私が先生に「そうして」って言ったの
そのあと、また少し間を置いてせらは話し出した。

それを簡単に話すとこうだ。








2年前、新しく開発された統合失調症とうごうしっちょうびょうの薬。

せらは、その薬の"被検体ひけんたい"としての話が回ってきた。


当然、それには本人とその両親の了解がいる。

でも、先にその話を聞いたせらは、了解をした上で、両親に
話すことを「やめてほしい」と言った。


その理由は教えてくれなかった。


そして、被検体となったせらは、もともと症状が重かったこともあり、病院に入ることになった。

しかし、そこでの暮らしは彼女にとって辛いもので。

それで、しばらく自分をかくしてほしいというように頼んだらしいのだ。




......川嶋に。




相川 せら
──自分から被検体の話を受け入れたし、
なんか後に引けなくて......
坂倉 悠斗
............そっか
ゆっくりと、悠斗がそう言った。
坂倉 悠斗
ごめんな......無理させて
相川 せら
ううん。私こそごめん
そんな短い会話のあと、俺も「ごめん」と「ありがとう」を
言った。

せらは、ただただうなづいて、また同じようなことを言った。




すぐ後ろで、川嶋が小さく息をいた音が聞こえるほど静かになって。







せらや悠斗の顔を見て、なんとなくこの後の話題を察した俺は、1人、考え事をしていた。

























坂倉 悠斗
......ずっと、"アイシン病"にかかったフリを
してたのか?
わざわざ辞書まで用意して
相川 せら
あー、うん、そうだね......。
バレないようにしなきゃって思ってたから。
......悠斗、辞書のこと知ってたんだ
坂倉 悠斗
まあな
川嶋 彰良
なにか話し方が変だと思っていたら......
そういうことだったんですね
相川 せら
まさか、き、聞いてたんですか......?!
川嶋 彰良
ええ、まあ。時々ですけどね
薄く微笑んだ彼は、小さな声で続ける。
川嶋 彰良
思わず、昔を思い出してしまいましたよ
相川 せら
っ......そうですか
2人が意味深な会話をする中、少し違うテンションの声が
俺に向けられる。
坂倉 悠斗
なあ渉。そういえば、そらは......?
森崎 渉
え、ああ......
さっきから考えてはいたけど、急に話に入ると思ってなくて、困ってしまう。

少し考えて、俺は余計な説明をなくして、簡潔に伝えることにした。
森崎 渉
......入院、してる。この病院で
坂倉 悠斗
......ぇ
悠斗の力ない声とともに、その場に短い沈黙ちんもくが訪れる。





......まあ、俺も伝えるのは戸惑ったけど。

ここで嘘を吐いても仕方ないだろうなって。
森崎 渉
"アイシン病"......らしいけど
そう言った俺の声は、その場の空気に溶け込むように、静かに消えた。





なぜかそらの顔を思い出してしまって、感情を抑えようと、
軽く深呼吸をする。


脳に酸素が送られたのか、少し冷静に慣れた気がした。





やがて、小さな溜息ためいきの後に、俺の後ろで声がした。
川嶋 彰良
そらさんの担当も私です。
いつかお話しますよ、色々と。
それより、もう帰った方がいいんじゃない
ですか?
部屋に取り付けられた時計は、まさに帰らなければいけない
時間を指していた。

どうやら、悠斗もそうらしい。
坂倉 悠斗
じゃ、じゃあせら、また今度な!
森崎 渉
じゃあな
相川 せら
うん。またね!
そんな挨拶を交わすのをなつかしくかしく感じる。

少し恥ずかしいようで、でも嬉しかった。


そんな俺達を、1人の医者が微笑ほほえましそうに、切なそうに、
そんな表情かおでみていた。

プリ小説オーディオドラマ