第44話

構わないで 3
26
2019/07/20 09:29
しばらくして、ノックの音が部屋に響いた。
相川 そら
は、はい
おずおずと部屋に入ってきたのは──......。
相川 そら
渉......
森崎 渉
あー、......久しぶり......そら
相川 そら
ひ、久しぶり......
しばらく見ていなかったその顔に、少し安心する。



......けど、なんか顔が熱くなってきた気がする。


そういう病気なのかな?

それとも、影響?
森崎 渉
えっと......元気だった?
相川 そら
そう見えてほしいけど......。
一応入院してるからね、私
森崎 渉
そ、そうだよね、ごめん......











......何しに来たんだろう。

そんなことを思うほど、渉はぎこちない笑みを浮かべている。




これじゃ、いつもみたいに話したりできないじゃん。


何を言おうか考えていると、おもむろに渉が話し始めた。
森崎 渉
あのさ......、こいつら、分かる?
相川 そら
え......?
渉の言葉のあと、部屋に入ってきたのは、懐かしい2人。


顔を見て思わず、声が出た。
相川 せら
......
坂倉 悠斗
久しぶり、そら。
......おい渉、こいつらって言うなや
森崎 渉
ごめんごめん。
それより、......そら
またぎこちない笑顔で、渉は問う。
森崎 渉
この2人、分かる?
相川 そら
......うん
分かるも何も、片方は私のお姉ちゃんだよ?

もう1人は、小さい時によく遊んでたし......。
相川 そら
せらと、悠斗......でしょ?
相川 せら
っ......そらぁ......!
相川 そら
わっ、ちょっと、何......?
なんか変だよ......?
坂倉 悠斗
......さすがに、まだ大丈夫、か......。
ってせら、暑苦しいから離れぇや
相川 せら
で、でも......、そらが......!
坂倉 悠斗
はいはい、良かったなあ。
でも困ってるやろ
相川 せら
......嬉しくないの?
坂倉 悠斗
それは......嬉しいに決まってるやん。
やけど、これでだましてるやつも居たし
......なあ?
相川 せら
うっ......そ、それは──
......あれ、こんなに仲良かったっけ。

それになんか、ゆうとの口調変なんだけど。



私の反応を見てか、渉が説明してくれる。
森崎 渉
あー、えっと、そら。
悠斗が関西に住んでるの、知ってるよね?
相川 そら
うん
森崎 渉
なんか、何年も住んでたから、向こうと
同じ口調になったんだって
相川 そら
へー、そうだったんだ......
坂倉 悠斗
やっぱり、違和感ある?
相川 そら
うん
坂倉 悠斗
えー、やっぱりそうなんかなあ......
口調は違うけど、そう言って笑う仕草は、なんだか懐かしい。










......あれ、そういえば、
相川 そら
面接したいのって、男子
......って聞いたんだけど
さっきの看護師さんに聞いた話だと、ここにせらが居るのは、おかしい......よね?
森崎 渉
え?あー......それは──








































渉からの話を聞くこと数分......。
相川 そら
──抜け出して来た......?
森崎 渉
う、うん......


渉によると、2年前に行方不明になったせらは、実はずっと
この病院で入院していた。



そして、最近、私の隣の病室に部屋が変わったのと、私が目を覚ますのが、同じタイミングだった。

だから、皆でお見舞いに行こう、という話になったらしい。



だけど、せらは一応入院中なわけで、渉達と一緒にお見舞いには行くのは難しい。




だから、こっそり抜け出して、この部屋に......。




ということらしい。





......私もよく分かってないから伝わらないと思う。

すみません。



相川 そら
嬉しいけど、......怒られないの?
相川 せら
大丈夫だよ〜、この時間はあんまり
見回りしてないし
相川 そら
そ、そっか......
なんて話をしてると、コンコン、とノックの音。
相川 そら
......はい
看護師
すみません、少し静かにしていただいても......
だんだんフェードアウトしていく看護師さんの声。

顔は、もちろん引きつっている。


そして、私の前でぴたりと止まるせら。
看護師
......せらさん?
相川 せら
は、はい......
看護師
どうしてここに居るんですか?
まだ完治したわけじゃないんですよ?
それに、もうすぐ診察の時間です
相川 せら
え......ほんとだ......
看護師
はあ......まったく。行きますよ
相川 せら
は、は〜い......。
じゃ、じゃあね、そら
相川 そら
あ、うん
......あんなに自信たっぷりに言ってたのはなんだったんだー!


数秒の間、しんと静まり返る。
森崎 渉
あー......えっと
坂倉 悠斗
......そろそろ俺たちも帰るか?
あんまここにっても、なあ......?
森崎 渉
そ、そう......だね




2人も帰るのかあ......。





前に目をやると、相変わらず白い時計が時間を指している。


......ああ、でも結構経ってるし、2人は帰った方がいいのかも。
坂倉 悠斗
じゃあ、またな
森崎 渉
またね、そら
相川 そら
うん。また、ね
ドアを開けて部屋を出ていく2人の背に、軽く手を振って見送る。





2人が「バイバイ」とかじゃなくて、「またね」と言ってくれたのが、なぜだか嬉しくて。


泣きそうになってしまうのを、なんとかこらえる。




それでも、ぎこちなくない優しい笑顔を向けてくれた渉を思い出して、やっぱり、私は──なんだな、と......。










......私は──、なに?







やっぱり、分からないことがある。



多分、ずっと前から分からなくなってしまっている何か。


大切なことのはずなのに、分からない。



この気持ちは──......なに?




この思いは──......?











考えれば考えるほど、なぜか息苦しくなってくる。

自分でも認識できるほど、息が荒い。













......なんなんだろう、これ。



病気のことも、だけど、あの思いも......一体─────?


























──それからのことは、よく覚えていない。

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