しばらくして、ノックの音が部屋に響いた。
おずおずと部屋に入ってきたのは──......。
しばらく見ていなかったその顔に、少し安心する。
......けど、なんか顔が熱くなってきた気がする。
そういう病気なのかな?
それとも、影響?
......何しに来たんだろう。
そんなことを思うほど、渉はぎこちない笑みを浮かべている。
これじゃ、いつもみたいに話したりできないじゃん。
何を言おうか考えていると、おもむろに渉が話し始めた。
渉の言葉のあと、部屋に入ってきたのは、懐かしい2人。
顔を見て思わず、声が出た。
またぎこちない笑顔で、渉は問う。
分かるも何も、片方は私のお姉ちゃんだよ?
もう1人は、小さい時によく遊んでたし......。
......あれ、こんなに仲良かったっけ。
それになんか、ゆうとの口調変なんだけど。
私の反応を見てか、渉が説明してくれる。
口調は違うけど、そう言って笑う仕草は、なんだか懐かしい。
......あれ、そういえば、
さっきの看護師さんに聞いた話だと、ここにせらが居るのは、おかしい......よね?
渉からの話を聞くこと数分......。
渉によると、2年前に行方不明になったせらは、実はずっと
この病院で入院していた。
そして、最近、私の隣の病室に部屋が変わったのと、私が目を覚ますのが、同じタイミングだった。
だから、皆でお見舞いに行こう、という話になったらしい。
だけど、せらは一応入院中なわけで、渉達と一緒にお見舞いには行くのは難しい。
だから、こっそり抜け出して、この部屋に......。
ということらしい。
......私もよく分かってないから伝わらないと思う。
すみません。
なんて話をしてると、コンコン、とノックの音。
だんだんフェードアウトしていく看護師さんの声。
顔は、もちろん引きつっている。
そして、私の前でぴたりと止まるせら。
......あんなに自信たっぷりに言ってたのはなんだったんだー!
数秒の間、しんと静まり返る。
2人も帰るのかあ......。
前に目をやると、相変わらず白い時計が時間を指している。
......ああ、でも結構経ってるし、2人は帰った方がいいのかも。
ドアを開けて部屋を出ていく2人の背に、軽く手を振って見送る。
2人が「バイバイ」とかじゃなくて、「またね」と言ってくれたのが、なぜだか嬉しくて。
泣きそうになってしまうのを、なんとかこらえる。
それでも、ぎこちなくない優しい笑顔を向けてくれた渉を思い出して、やっぱり、私は──なんだな、と......。
......私は──、なに?
やっぱり、分からないことがある。
多分、ずっと前から分からなくなってしまっている何か。
大切なことのはずなのに、分からない。
この気持ちは──......なに?
この思いは──......?
考えれば考えるほど、なぜか息苦しくなってくる。
自分でも認識できるほど、息が荒い。
......なんなんだろう、これ。
病気のことも、だけど、あの思いも......一体─────?
──それからのことは、よく覚えていない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!