──そらと病院へ行った日。
病院へ着く前に、そらが"アイシン病"という確証を得られた。
何かを"好き"だと思うことが出来なくなっていた、からだ。
"アイシン病"はその感情──恋愛感情をはじめに忘れてしまう
らしく、逆にそうなっていたら"アイシン病"だと分かる。
ある意味見分けやすい病気だ。
しかし、治療法や原因など詳しくは分からない。
精神病の一種ということもあるからなんだろう。
よく似ている"統合失調症"という病気があるらしいけど、
これと同じ治療法はあまり効かないようだ。
──じゃあ、もうお手上げじゃないか。
俺はそう思った。
......在り来りだけど。
でも、そこで俺の悪いクセが出る。
いつもそうだ......。
──絵をしばらく眺めていると、ふとあることを思い出した。
俺は向かって右側の通路を進んでいく。
この先に、まだあれがあったはずだ。
相変わらず掃除されてなさそうな通路には、ごみが増えていた。
......主に吸殻。
ここに来る人がいること自体が驚くけどなあ......。
でも人が少ないから吸いやすいのか。
俺はそのまま道なりに進んでいく......──。
──俺の悪いクセ。
それは、嫌なことを一度閉じ込めること。
まあ......現実逃避をしてるのと変わらないんだけど。
「それ」を現実として受け止めることが怖いのだ。
自覚はあるけど、なかなか直せそうにない。
そして、時々別の自分がでてきて、事実を突きつける。
そいつはまるで......、悠斗。
ちゃんと現実を見て、受け止めて。
その上で行動する。
俺なんかより、よっぽど偉いし、強い。
せらのこと、そらのこと、自分自身のこと。
ちゃんと整理して、どうしたいか決めて、行動。
......それがどんなに辛いことでも、普通にこなすあいつは──悠斗は、すごいと思う。
簡単にできることに思えない......。
──やっと着いた。
久しぶりに来たせいで、道が長くなってるように感じた。
目の前には、ほとんど外観の変わっていない映画館がそびえている。
もう廃墟と言えるほどにいたんでいるそれは、
なぜか俺を安心させる。
......誰も居ない、と分かっているから。
ドアの隙間に体を滑り込ませ、静かに映画館の中に入る。
不法侵入、なんて言葉があるのは知ってる。
でもここは、もともと俺の親戚が所有していたらしいし、多分大丈夫だと思う......。
そういや小さい頃、悠斗と俺の秘密基地にしてたことがあったな......。
あの時はあんま怒られなかった気がする。
......だ、大丈夫だよな......?
俺は映画館の中を進んでいった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。