ふと、目が覚めて。
微睡む視界の中に、君の笑顔があって。
──そんな夢を、日々を、どれほど願ったのだろう。
私の目に映ったのは、やっぱり白い天井だけだった。
......でも、その日に見えたのはそれだけじゃなかった。
すぐ側に、お母さんがいるのに気づいたんだ。
お母さんは、壁にもたれるようにして眠っていた。
目の下のクマがひどく目立っていた。
なぜか掠れた声が出たけど、気にせず言い切った。
ここがどこなのかとか、今の日付とか、そういうものは不思議と気にならなくて。
ただ、お母さんが心配だった。
......なんの反応もなくて、私はもう一度呼んだ。
お母さんの小さな声が聞こえた。
良かった......。
そう思うのと同時に、ため息のような息を自然と吐いた。
お母さんは、ゆっくりと目を開け、私の方を見る。
少し小さな声になったけど、やっぱり気にしないで、言った。
すると──
んー......んー?うん。
様子が変だ。
なんで急にあんなこと聞くの。
まるでドラマで見たあのシーンみたい。
ほら、主人公がなにかの事故にあって、記憶をなくして......。
みたいな。
......事故......?
自分の体を見てみるけど、どこもケガをした感じはない。
布団に隠れている足もいつもと変わらない。
じゃあ、まさか、記憶が......?
......いやいやいや、まさか......ね。
そんなことを考えているうちに、部屋に見覚えのある人が入ってきた。
白衣を着たその姿は、まさに医者、という感じで。
もう一度辺りを見回して、白い壁と天井とかを確認して。
そこでやっと、ここが病院だと気付く。
私に近づいてきたその人は、そう言って私の顔に触れる。
正面からライトを当てられて、少し眩しい。
チラッと見えた、首にかかったネームプレート。
そこには「川嶋 彰良」と書かれていた。
その言葉の後、その人はお母さんに目配せをしてから、短い話を始めた。
私は、ただそれを聞いていた。
まず、私がとある病気になっていること。
この病気は、どうやら記憶をなくしてもおかしくないものらしい。
......だから、お母さんはさっき......。
そして、その病気の治療によって、しばらく寝ている状態に
なってしまっていたこと。
そして。
その病気によって、私はここで入院しなければいけないこと──。
なぜか、私には最後の言葉がとても重く聞こえてしまった。
だからだと思うけど、なんて返せばいいか分からなくて......、
小さく頷いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!