映画館を出てから数分後。
俺は病院の前に立っていた。
少し照明の落ちたその入り口は、やっぱり少し怖いな......。
早足でそこを通ると、ロビーに居た看護師の方と目が合った。
看護師は受け付けの方へと歩いていった。
......何度も通っているからだろう、何人かの看護師には、すっかり覚えられてしまっているらしい。
先ほどと同じ看護師の立つ受け付けの前で待つ。
首を回すと、様々な、病気の予防を呼びかけるポスターが見える。
ここは精神科病棟だからか、精神病のものがほとんどだ。
ゆっくりと、1つずつ見ていく......。
......と、見慣れた、いや聞き慣れた病名を2つ見つけた。
並べて貼ってあるそのポスターは、無駄に明るい色で、病名が示されている。
なんで、似てる病気なのに、片方しか治療法がないんだろう。
なんて思っていると、肩を叩かれた。
......先ほどの看護師だ。
右手へと曲がりながら、看護師に頭を下げた。
渡された紙には、やっぱりあの医師の名前がある。
......そういや、悠斗に呼ばれてたっけな......。
そのまま居ればいいのか?
いや、さすがにそれは......。
まあ、その時に考えればいいか。
少し眠い目を擦って、ポスターが並んだ廊下を歩いていった。
その声をかき消すようにドアを閉める。
今日は、視界の端に映り込む、白いドアが、壁が、さっきの
スクリーンみたいに見えて、怖かった。
悠斗に呼ばれていたことなんて忘れて、俺は歩き出す。
さっさと、帰りたい......。
......なんていう俺の思いなんて知らないだろう声に、名前を呼ばれた。
振り向きたくない。
けど、強引に振り向かされる。
......やっぱり、こいつは苦手だ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!