此処はお嬢様の部屋、俺は彼女の指輪を見つめて『 やっぱり俺じゃあかんのか』そう思った。その時、彼女と目があった。俺には彼女の目は「助けて欲しい」と訴え掛けているように感じた。上目遣いで
「望。」
と彼女が俺を呼ぶ。
『 どうしたんですか? あなたお嬢様』
俺はふふっと笑いながら言った。
「二人の時は哀でいいの」
彼女もまた笑いながら言う。俺は気付けば彼女という沼にハマっていた。でも今では彼女を連れ去りたいとまで思っている。 明日ヤツがこの家に来る。─ヤツとは哀の婚約者の事だ─。俺はあなたに言う
『 明日此処からあなたを連れ去りたいと思う』
あなたは最初ポカンとしていたが後に理解したようで、真剣な顔でうなづいた。
翌日、俺は、ドアノブを握り哀の方を見た、あなたの瞳には怖いという気持ちも混じっているような気がする。だが彼女は俺に向かって微笑みながら頷き指輪を抜き捨てた。それを見た俺はドアノブを捻る。ドアがキキィーという音を鳴らしながらゆっくりと開く。
そして、俺達は、走り出す。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!