運んで来たはいいものの、私が出来るのは救急セットの中にある物でできる応急処置だけ。
こんなに怪我をしているなら普通なら病院に運んだりするけれど…
彼は妖だ。
どうしよう、凄く血が出てる…。
それに酷い熱。どこからどう見たって辛そうだ。ーーいくら妖、それも上級妖だとしても。
痛いものは皆んな痛い。
しかし、私は一般的な包帯や血止めぐらいしか出来ない上、実は血を見るのは無理な方だ。
パァァァ(緑の光と効果音)
そう、私は妖の治癒魔法が使える。
始めて力が発動したのは6歳の時。その時、多くの妖に私がこの力を使える事が知られてしまった…。
私の両親は私の事を少し変な子だと思いつつも、変わらず愛してくれた。
幼ながらも、私はもう妖の事を言うのはやめた。もう全て構って欲しさだったという事にした。…両親達にもうこれ以上心配させたくなかったーー。
ーーけれど、私が治癒魔法が使えるのを妖に知られれば、襲われそうになったり、攫われそうになったりする。
……昔、妖に攫われた事がある。
ーー暗い中、1人でとても怖かった。寂しかった。
『早くお家に帰りたい』
そう思った時、一つの大きな手が私を救ってくれた。
「もう大丈夫だよ」
最後にそんな言葉を聞いた。とても優しい声だった。この人になら身を任せてもいいと思えるくらいに…。 その後の事はあまり覚えていない。
今考えたら、あの人も妖だったのかもしれない…。しかし、もうあの人の顔も温もりも思い出せい。どんなに両親に訴えても探しだすことはできないーー。
両親が警察に捜索届を出しても全く私が見つからず途方に暮れていた時、偶然玄関のドアを開けたら私が横たわっていたらしい。
……警察は十年前のこの事件を誘拐事件と処理したが、私は断言できる…。
ーー十年前のあの日、私を誘拐したのは顔も分からない妖だった事。そして、あの大きな手が私を救ってくれた事。
あの日から私は誰にも妖が見える事、治癒魔法が使える事を隠して生きてきた。
そう、私の中の何かがそう叫んでいる…。
なんなんだろう。この感情は私のものではない。……他の誰かのものだ。
けれど私はこの感情をどこか、知っている。。。
思い、、出せない…
『もう誰も私のせいで誰も傷つけたくない』、?
『今生こそは…!』、⁇
………?
今までにない、怒りと悲しみ、そして
申し訳なさ、、、
何なのだろうか…。この感情は。
気づくと彼の傷は綺麗に治っていた。
けれど、彼は一向に目を覚さない、、、
ーーもう私が出来る事は彼の目が覚めるまで側にいる事しかできない…。
気づくと私は彼の寝ているベッドの横で眠っていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。