ある日の土曜日。
わたしの仕事はお休みで
はるくんはレコーディングからの
YouTube撮影だから
1人だけの休日を過ごしていた。
彼が仕事で頑張っているのに、
わたしだけダラダラしたり
遊びにいったりする気分にもなれなくて…。
家で少し大がかりなお掃除でもしようかなと
準備を始めたとき、わたしのスマホが震えだした。
なにかあったのかな?
わたしはスマホの通話ボタンをタップした。
もう?
時計を確認すると、まだ15時前だ。
予想外の、はるくんからの提案。
10日程前から咲き始めたラベンダーは、
ちょうど見頃で満開になっているところが
ほとんどだ。
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それから、はるくんは本当に4時前に帰ってきた。
玄関のドアを開けるなり
と、わたしを呼んで家から連れ出し
わたしはそのまま車の助手席に乗せられた。
はるくんの運転でお出かけするのは
久しぶりだから嬉しいんだけど…
バンド活動とYouTube活動の両立。
ものすごく体力勝負に違いない。
はるくんはそう、笑顔で答えた。
それにしても…どこに行くんだろう?
窓の外の景色は
もう既に見知らぬ場所になっていて
わたしは少し不安になった。
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そして、ようやく着いたらしい。
わたしとはるくんは、車から降りた。
はるくんが
ラベンダーの木を見上げるわたしの手を繋いだ。
わたしはラベンダーから目が離せなかった。
そんなわたしを見て
はるくんが満足そうに笑った。
わたしの隣にいたはるくんが
わたしの前に立った。
それから、愛おしそうに
わたしの頬にそっと触れて
そのままわたしの顔を覗き込んだ。
無言のわたしに、
はるくんは困ったように眉毛を下げて
笑いながら言った。
はるくんは、わたしの頬と手の間から
自分の手を抜き取ると
今度はわたしの手を握り
少しだけわたしを引き寄せた。
ちょっと待って…
分かんない…
そんなの、急に言われても分かんないわよ…
わたしの頭の中はパニックになっていた。
はるくんの動く唇が
スローモーションのように見えた。
自分の心臓の音がうるさい。
わたしはこれからはるくんがくれる言葉を
きちんと…受け止めなくちゃいけないのに
はるくんの顔が見たいのに…
涙の粒がそれを邪魔していた。
わたしは、はるくんの瞳をまっすぐ見つめた。
はるくんのその言葉と同時に
わたしの目から大きな涙が溢れ落ちた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。