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2020/10/18

第4話

春の微笑み
甲斐原ひなた
甲斐原ひなた
おっはよーイケメンくん
教室のドアをくぐった俺を一番に迎えたのはクラスメートの男子のふざけた挨拶。
黒川千夏
黒川千夏
うっさい、ひなた。…おはよ
甲斐原ひなた
甲斐原ひなた
おっす、おはよー
相も変わらず愉しそうな顔の親友は片手を上げて応える。この、顔だけは・・・良いと女子に評判の男子は、甲斐原かいはらひなた。我が私立櫻坂学院高等部一年四組きっての問題児である。
甲斐原ひなた
甲斐原ひなた
千夏ちなつー、今日の昼休みに早速、女子口説きに行こうぜー
黒川千夏
黒川千夏
一人で撃沈してろ
甲斐原ひなた
甲斐原ひなた
ひっど、俺ら親友じゃん?
黒川千夏
黒川千夏
お前こういうときだけ親友使うのやめろよな……
甲斐原ひなた
甲斐原ひなた
使うだけ得じゃね?
黒川千夏
黒川千夏
女子に刺されて死ぬお前の未来がみえる
甲斐原ひなた
甲斐原ひなた
えー?そんなことないだろー
南海亜子
南海亜子
私も見えるよ、甲斐のその未来
ひなたの後頭部にチョップを入れつつ、クラスメートの女子が俺に笑みを向ける。
南海亜子
南海亜子
よっ、黒川くろかわ。ついでに甲斐
黒川千夏
黒川千夏
おはよ、南海
甲斐原ひなた
甲斐原ひなた
俺はついでか
南海亜子
南海亜子
ついでに入れてくれるだけ有り難いと思いな甲斐
ひなたの不満をさらりと受け流した少女は、南海みなみ亜子あこだ。いかにもリア充な感じのするお洒落な女子で、制服も着崩している。ただ髪は染めておらず、黒髪のまま。まあ、カラコンはしているが。
赤髪のひなたと並ぶと優等生に見え…なくもない。
南海亜子
南海亜子
何か言った?
黒川千夏
黒川千夏
何でもないですすみません
じろりと睨まれた。南海は大変空気が読める為、もはや思考も読まれている。どんな能力者だ。
甲斐原ひなた
甲斐原ひなた
んで、南海ちゃんは何か用でもあるんでしょ?俺に口説かれにきたの?
南海亜子
南海亜子
誰が甲斐に口説かれにくるか。
一人で妄想してろナンパ男
相変わらずひなたは女子からの扱いが酷い。
学院の女子ほぼ全員からこの扱いだ。


ひなたは顔だけいいため、色んな女子を引き寄せてしまい痴情のもつれを引き起こしていく。
八つ当たり的な面もあるかもしれないが、ひなたもわざとそれを引き起こしている節がある。

ひなた曰く、人の修羅場ほど愉しいものはない、だそうだ。いずれ本当に女子に刺されて死ぬと思われる。御愁傷様です。


ただ、南海はわりと寛容で、何だかんだいいつつ、クラスでは俺とひなたと同じグループにいる。
中学一年生の頃からずっと同じクラスなのもあるかもしれない。まあ、クラス替えは中学生になってから一回だけしかしていない。
この学院は、中等部から高等部まであって、二年ずつクラス替えをする。つまり高等部一年の今のクラスは中等部三年の時と一緒。

高等部一年に上がったとはいえ、顔馴染みばかり。

…それでもやっぱり新学期は何だか浮ついた気分になるのは、新学期マジックとかいうやつだろうか。

南海亜子
南海亜子
…で、健全な男子高校生諸君へ朗報。
今日からこのクラスに、転入生が来るらしいよ。女の子の
甲斐原ひなた
甲斐原ひなた
かわいー子?
またもや、ひなたを睨みながら南海が答える。
南海亜子
南海亜子
知らないよ。たまたま会った担任に聞いただけだもん
黒川千夏
黒川千夏
そういえば…転入生ってさ、あんまりいないよね、この学校
南海亜子
南海亜子
んー、考えてみたらそうだね。
高等部に上がっても一人しか転入生が来ないなんて。………もしかして、この学校人気無いの?
黒川千夏
黒川千夏
うーん…編入試験って難しいらしいよ
南海亜子
南海亜子
そっかー
甲斐原ひなた
甲斐原ひなた
俺、入試で入れてよかった
南海亜子
南海亜子
甲斐の頭で入れたのが不思議だよね
相変わらず辛辣な物言いをする南海だが、ひなたを、甲斐原ではなく甲斐とあだ名で読んでいるあたり意外と仲良しなのかもしれない。
クラスメイトは大抵ひなたを甲斐原と呼ぶし、そこだけ考えると二人は良さげな仲だ。

実はお似合いなんじゃないか……とかは南海にどつかれそうだから間違っても口には出さない。



そうこう話しているうちに親しい顔ぶれも揃い始め、席が埋まっていく。空っぽだった教室にどんどん人が流れ込んでくる光景は、春休み明けの身としては、懐かしさを感じなくもない。
南海とひなたと別れ自身の席に着く。

久しぶりの日常が戻ってくるという軽やかな予感が胸を満たし、席から春休み前ぶりの光景を眺める。

遅咲きの柔らかな桜の花弁が窓の外で散り、青空は水晶のように透き通る。
可笑しいほどに雰囲気のある新学期。
担任教師
はーい皆さん久しぶりー
担任教師が入ってきて軽く挨拶をする。
今年もクラス同様同じ先生だから、しっかりと自己紹介もせず、早速とばかりに切り出す。
担任教師
えー、今日からこのクラスに転入生が入ってくるから。皆さん仲良くしてくださいね
甲斐原ひなた
甲斐原ひなた
俺らは小学生かよ
ざわつく教室の中、紛れるようにひなたの漏らした小さな不満を苦笑で受け流し、担任は開いたままのドアの外へ向けて手招きする。
担任教師
白町・・、入ってきて

──身体中に、電気のような痺れが流れた。
白町しろまち。確かに担任はそう言った。
でも、いや、まさか。


空転する思考の隅で回想する。
最後に見た彼女の姿、言葉、微笑み。
春を思わせる雰囲気を纏った、彼女。


彼女・・とは別の中学校に進んだ為、最後に会ったのは小学校の卒業式だ。
まさか。そんなことが。
耳のすぐそばで鳴っているみたいに、強く強く、心臓の鼓動が聞こえる。
 



ドアから、静かに少女が入ってくる。
真っ直ぐに前を見据え、ぴんと伸びた姿勢。
しなやかな絹を思わせる色素の薄い鎖骨までの髪。
桜の花弁のように柔らかな微笑み。
淡雪の如く透き通る白磁の肌。



思わず小さく息が漏れる。
身長は変われど、容姿までは大きく変わらない。
その、春の微笑みは。
彼女だ。




白町月兎
白町月兎
──はじめまして、じゃない人もいますけど、

記憶と変わらない涼やかな声に、悪戯っぽい笑みを滲ませて、彼女は確かにこちらを見つめた。
はっきりと、俺の目を見つめて。

白町月兎
白町月兎
はじめまして。白町しろまち月兎るなといいます。
これからどうぞ、よろしくお願いしますね?


白町の春の微笑みは、日常の変化を告げる合図のように、鮮やかで、あまりに美しかった。