目頭に溢れる涙をさっと拭い、不自然でないようにすぐに振り向く
しばらく俯いてだんまりしている緑谷くんを不思議そうに眺めていると、その後ろから人影が1つ近付いてきていた
爆豪くんの表情、雰囲気..誰が見ても怒っていると捉えられた
爆豪くんは私のことを疑うように見つめてきた
だけど、その瞳は、何かを悩んでいるようにも見えた
私がその場を去る時も、爆豪くんは依然として私のことを見つめてきた
私はこの時、ふと思い出した
以前私がおつかいから戻った時、確かここで爆豪くんに会った
その時、多分..私の住んでいる場所があそこだってバレていたはずだ、と
きっとさっきの爆豪くんの目は、その事についての疑問だったんだと私は悟った
私はそっと、その優しさを心の片隅に置いておいた
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あの場から逃げ出すように別れを告げた後、私はただ、宛もなく街を歩いていた
活気溢れる商店街には夕食の材料を求める人でごった返していた
人混みを見ると、ふと思う
と。
でも、答えは明白だ
そんなもの、意味がないに決まっている
知らない人に個性を掛けても、私の存在そのものを元から知らないのだから、忘れようにも、忘れる分の記憶がないのだから。
そんな考え事をしながら、私は街をずっと歩いていた
その時、一角にあったお店から、1人の子供が飛び出して来た
突如のことで反応が出来ず、私は子供とぶつかってしまった
子供と私では、流石に体格が違う。だからこそ、子供の方は地面に転んでしまった
「でも..」と言いながら、子供は手に持っていたぐちゃぐちゃになってしまった紙を見つめていた。
私はすぐに子供が出てきたお店を確認した
お店は、お花屋さんだった
小さな手の中に握られていた紙には、確かに一輪の花があった
潰れて萎れてしまっているけれど、とても綺麗な花だった
ベルフラワーとは、落ち着いた紫色がとても綺麗な花
そう言って、私は花を両手で優しく握り、そっと個性を使った
すると、花はみるみると元の姿に戻っていった
ベルフラワーのもう1つの花言葉は"楽しい会話"
私は子供の手にそっとお花を乗せた
子供は元気いっぱいの笑顔を浮かべて去って行った
私の個性の使用条件は私の感情
人間は何を持ってヒトと呼ばれるのか、答えはまだ明白には分かってない
けど、感情がない人間を、私はヒトだと思えない
それこそ、植物や何かと同じだと思ってる
でも...私はそっちも好き
だって、私も同じようなものでしょ
同類は好きだよ
私は花を咲かせる対価として感情を献上してる
別に、感情が奪われているという訳では無い
例えば、ブローディアを咲かせたい時は、保護や守りに類似した感情を出すことが条件。
特定の花を咲かせるためには、花言葉に沿った感情が必要、そんな感じ
だから厳密には奪われているのではなく、感情を具現化している、の方が正しいかもね
でも、個性を使うために感情をコントロールして来たからかな..本当の感情、分からなくなった
本当に面倒臭い個性だと、改めて思う
だけど...
そうして渡されたのは、私のハンカチだった
と、軽く会釈する
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。