普段はあまり表情に出さないようにしていたけれど、あっさりとバレてしまった
ひょっとしたら、私は、このことを誰かに言いたかったのかもしれない
私は"いつものように"を忘れて、顔一面に笑顔を浮かべてそう答えた
こんなにも嬉しいという感情に触れたのは、とても久しぶりだったから
うちの施設には、他にも、私のように身寄りのない子供が大勢いる
そんな子達をこうして支えてくれる施設があるのは、とてもありがたいことだと私は知っている
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子供はどちらかと言うと好きだ
素直な意見を言ってくれるし、気を遣わなくてもいい
それに、私自身、"お世話"と言うのが好きなのかもしれない
矢摩さんとは、この施設の管理人兼私たちの世話係のこと。
今日、私に施設の事を頼んでくださった方
子供にそう言われ、私も門の前を見た
するとそこには、正装をした男性が立っていた
男性は門を開けると、真っ直ぐと施設に向って歩いて来た
用意したご飯を食卓に並べ、私は施設の玄関に向かった
対応をするのは、もちろん現在ここを任されている私
矢摩さんが私を指名したのには理由がある
それは、私がこの施設で最年長だと言うこと
それ以外にも理由があるのかもしれないけれど、今のところ私にはそれしか分からない
だけど、合理的に考えればこれが正しい
矢摩さんがこうして対応しているのを何度か見たことがあった。
だから、私も真似て対応を試みた
私は、さっき伝えられた全員を引き取るという言葉が信じられずにいた
もちろん、引き取っていただくのは結構だ
しかし、この大人数を一度に引き取ると言う方は前例がない
前例がないからこそ、私は信じられずにいた。だけど、それだけではなかった
富松さんの言葉には、心がなかった
私だって、心がないと思われるかもしれないけれど、比べ物にならないのではないか、と思うほど冷たかった
言葉の一つ一つに疑問を抱き、冷静に考えた
矢摩さんが以前言っていた
「ここから出ていく子供を見るのは、すごく寂しいけれど、やっぱり嬉しいんだよ」
「でもね、ここから送り出す側として、みんなには幸せになってもらいたい。」
「だからこそ、私たち施設側の人間は、ただ送り出すのではなく、その子の未来を考えて、人を見極めることもしなければいけないんだよ」
その時、部屋中に独特な青臭さが広がった
私は匂いの正体を知っている。
それは、棚の上に寂しく活けられた1本の花から香る匂い
赤色で、丸みがかった形が一見可愛らしい花。
それがゼラニウム。
しかし、ゼラニウムには独特な青臭さがある。
それからつけられた花言葉は...
私は、富松さんが部屋に入る前に、ゼラニウムの花を仕掛けておいた
別に初めから疑っていた訳では無いけれど、私が子供ということを見計らって、なにやら小癪な手を使ってくるかもしれないから..
部屋に私と富松さんの声が響いていた
その声に反応した子供達の足音が鳴っていた
多分、盗み聞きを試みているのだろう
だけど、こんなにも醜い現場は見せられない
「早く終わらせなければ」
そう、心では思えた。
だけど、やっぱり子供は大人には勝てないのだろうか
前方には、懐に手を入れ、何かを取り出そうとする富松さんがいた。
今から起こりそうなことを私はいくつか予想していたけれど、それを回避する術が
思いつかなかった
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!