第4話

ゼラニウム
1,913
2020/09/27 12:17
琴花 あなた
ただいまです
施設の人
おかえり、あなたちゃん
施設の人
あれ、何かいい事があった?
琴花 あなた
....///
琴花 あなた
"優しいね"と、言われました..(嬉
普段はあまり表情に出さないようにしていたけれど、あっさりとバレてしまった


ひょっとしたら、私は、このことを誰かに言いたかったのかもしれない
施設の人
それは、すごく嬉しいことだね(ニコッ
琴花 あなた
はい!
私は"いつものように"を忘れて、顔一面に笑顔を浮かべてそう答えた
こんなにも嬉しいという感情に触れたのは、とても久しぶりだったから
施設の人
そうだ、あなたちゃん
明日なんだけどね、少し施設の子達の面倒を見て貰えないかな?
施設の人
予定ができてしまったものでね
琴花 あなた
構いませんよ
施設の人
ありがとう、じゃあよろしくね
琴花 あなた
はい
うちの施設には、他にも、私のように身寄りのない子供が大勢いる

そんな子達をこうして支えてくれる施設があるのは、とてもありがたいことだと私は知っている








施設の子供
なぁあなた〜お腹空いた〜
琴花 あなた
今作ってるから、もう少し待ってね
子供はどちらかと言うと好きだ

素直な意見を言ってくれるし、気を遣わなくてもいい



それに、私自身、"お世話"と言うのが好きなのかもしれない
施設の子供
ねぇ、あなた姉
門の前にいるのって、矢摩やまさんのお客さんかな..?
矢摩さんとは、この施設の管理人兼私たちの世話係のこと。
今日、私に施設の事を頼んでくださった方
琴花 あなた
門の前、?
子供にそう言われ、私も門の前を見た

するとそこには、正装をした男性が立っていた



男性は門を開けると、真っ直ぐと施設こちらに向って歩いて来た
琴花 あなた
ご飯、できたよ
先に食べててね
施設の子供
はーい
用意したご飯を食卓に並べ、私は施設の玄関に向かった




???
こんにちは
お昼時にすみません、お食事中でしたでしょうか?
琴花 あなた
いえ
対応をするのは、もちろん現在ここを任されている私


矢摩さんが私を指名したのには理由がある


それは、私がこの施設で最年長だと言うこと


それ以外にも理由があるのかもしれないけれど、今のところ私にはそれしか分からない


だけど、合理的に考えればこれが正しい
???
私は富松とまつと言います
琴花 あなた
富松、さんですね..
その、本日は一体どのようなご要件で
矢摩さんがこうして対応しているのを何度か見たことがあった。

だから、私も真似て対応を試みた
富松 裕二
では、単刀直入に申します
こちらの施設にいる子供の皆さんを、引き取りたいと思いまして
琴花 あなた
ッ!全員を、ですか..?
富松 裕二
はい
富松 裕二
あまり時間は掛けられませんので、今日は手続きだけをしようと思い、参上しました。
あなたは代理の方でしょうか?
まぁ、それでもいいでしょう..
早めに手続きの用意をお願いします
私は、さっき伝えられた全員を引き取るという言葉が信じられずにいた


もちろん、引き取っていただくのは結構だ

しかし、この大人数を一度に引き取ると言う方は前例がない



前例がないからこそ、私は信じられずにいた。だけど、それだけではなかった
琴花 あなた
手続きの前に、1つお聞きしたいことが
富松さんの言葉には、心がなかった


私だって、心がないと思われるかもしれないけれど、比べ物にならないのではないか、と思うほど冷たかった



言葉の一つ一つに疑問を抱き、冷静に考えた
琴花 あなた
...全員を引き取っていただくのは構いません、ですが..
琴花 あなた
ここにいる子供は、皆同じという訳ではありません
琴花 あなた
親の暴力により、恐怖を抱えている子
捨てられ、寂しさを抱いている子
親の顔を見ることなく、愛情というものを知らない子
琴花 あなた
それ以外にも多くいます
その子供たちみんなを、あなたは養い、幸せにすることは出来るのでしょうか
矢摩さんが以前言っていた



「ここから出ていく子供を見るのは、すごく寂しいけれど、やっぱり嬉しいんだよ」

「でもね、ここから送り出す側として、みんなには幸せになってもらいたい。」

「だからこそ、私たち施設側の人間は、ただ送り出すのではなく、その子の未来を考えて、人を見極めることもしなければいけないんだよ」
琴花 あなた
(私も、相手を見極めなきゃいけない。今は、私が施設側の立場に立っているのだから)
富松 裕二
...できますよ
富松 裕二
皆さんを平等に愛し、育てることができます
だから、早く手続きをお願いします
琴花 あなた
どうやって、するつもりでしょうか
富松 裕二
...君は一体何なのでしょうか
私はここの子供たちを救おうとしているのにも関わらず、君はまるで、救わなくていいと言っているようですよ
富松 裕二
私は研究者です。
子供の行動、心理、全てを把握しています
ですから、全員を育てることは可能です
その時、部屋中に独特な青臭さが広がった
富松 裕二
ッ!なんですか、この匂いは..この施設はまともに空調の管理も出来ないのでしょうか..
琴花 あなた
これは貴方の匂いです
琴花 あなた
あなたの、"ウソ"の匂い
私は匂いの正体を知っている。

それは、棚の上に寂しく活けられた1本の花から香る匂い
琴花 あなた
あそこ、見えますか?
琴花 あなた
あれはゼラニウムという花です
赤色で、丸みがかった形が一見可愛らしい花。
それがゼラニウム。


しかし、ゼラニウムには独特な青臭さがある。


それからつけられた花言葉は...
琴花 あなた
"偽り"それがゼラニウムの花言葉です
私は、富松さんが部屋に入る前に、ゼラニウムの花を仕掛けておいた


別に初めから疑っていた訳では無いけれど、私が子供ということを見計らって、なにやら小癪な手を使ってくるかもしれないから..
富松 裕二
それとこれとが何の関係が?
琴花 あなた
ゼラニウムの匂いが香る時、それは嘘を察知した時
琴花 あなた
ですから、あなたは嘘を吐いているのです
富松 裕二
全く意味がわからない
琴花 あなた
これを理解できない方には尚更子供たちを引き取っていただく訳には行きませんね
富松 裕二
ッ.....このガキが!
大人を舐めているだろう!!
琴花 あなた
舐めているのはそちらでしょう?
私が子供だからと良いように誤魔化して
部屋に私と富松さんの声が響いていた

その声に反応した子供達の足音が鳴っていた


多分、盗み聞きを試みているのだろう



だけど、こんなにも醜い現場は見せられない



「早く終わらせなければ」

そう、心では思えた。
だけど、やっぱり子供は大人には勝てないのだろうか

前方には、懐に手を入れ、何かを取り出そうとする富松さんがいた。

今から起こりそうなことを私はいくつか予想していたけれど、それを回避する術が











思いつかなかった














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