普段は穏やかな仁菜が、人の変わったように敵意を向けてきている。
あずみは驚いて、言葉に詰まった。
何か、癪に障ることを言ってしまったかとあずみが思っていると、仁菜が口を開く。
あずみが引き留めようとするのを振り切って、仁菜は去って行った。
一人取り残され、あずみは呆然とする。
仁菜には、あずみも史哉に好意を向けているように見えるのだろう。
独り言をこぼして、自分の胸に聞いてみる。
すると、次第に胸が高鳴っていくのが分かった。
たった一日、一緒に出掛けただけで好きになるだろうか。
だが、この数日、史哉のことを考えては、胸が苦しかったり、ドキドキしたのは本当だ。
これが、恋煩い、というものだろうか。
自問しながらも結論は出ないまま、あずみも自分の鞄を拾って、帰ることにした。
***
あずみが校門を出た時だった。
フェンスにもたれかかっている史哉と出くわした。
彼はあずみを見つけて微笑むと、フェンスから体を離して近づいてくる。
誰かを待っていたのだろうか。
さっきの出来事のせいで、あずみはうまく笑い返せない。
間違いなく、史哉はあずみを待っていた。
初めて一緒に帰った日は、あずみから声をかけたのに、今日は逆だ。
周囲を気にしながらも、あずみはぎこちなく頷いて、史哉と一緒に帰ることにした。
いろいろと心苦しかったが、昨日のデートについて、あずみは思い切って聞いてみることにした。
史哉は苦笑いを浮かべている。
無理に自分を飾ろうとしたせいで、楽しかったが途中で疲れてしまったらしい。
あずみはため息をついて、頭を抱えた。
史哉は、女心がちっとも分かっていない。
恋愛に疎そうな史哉に対し、あずみは諭すように言う。
あずみも恋愛経験はゼロだが、史哉よりはマシだ。
史哉はぽかんとしたが、自分に置き換えて考えてみたようで、眉根を寄せ始めた。
そう言って、あずみは史哉にお願いした。
このままでは、部活にも支障が出てしまうし、以前の友好な関係を取り戻したい。
それなのに、史哉は真顔で首を横に振った。
【最終話につづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。