第9話

気付かされる本音
2,043
2019/03/31 09:00

普段は穏やかな仁菜が、人の変わったように敵意を向けてきている。


あずみは驚いて、言葉に詰まった。


何か、しゃくに障ることを言ってしまったかとあずみが思っていると、仁菜が口を開く。
黒澤 仁菜
黒澤 仁菜
あずみ先輩も副島先輩のことが好きなら、隠さずに最初から言えばいいじゃないですか!
保坂 あずみ
保坂 あずみ
……えっ
黒澤 仁菜
黒澤 仁菜
わざと黙ってて、私が振られるのを待ってたとか……ひどい!
保坂 あずみ
保坂 あずみ
あ、待っ……仁菜ちゃん!

あずみが引き留めようとするのを振り切って、仁菜は去って行った。


一人取り残され、あずみは呆然とする。


仁菜には、あずみも史哉に好意を向けているように見えるのだろう。

保坂 あずみ
保坂 あずみ
私が、副島くんを……好き?

独り言をこぼして、自分の胸に聞いてみる。


すると、次第に胸が高鳴っていくのが分かった。

保坂 あずみ
保坂 あずみ
(仁菜ちゃんの言った通りってこと……?)

たった一日、一緒に出掛けただけで好きになるだろうか。


だが、この数日、史哉のことを考えては、胸が苦しかったり、ドキドキしたのは本当だ。


これが、恋わずらい、というものだろうか。


自問しながらも結論は出ないまま、あずみも自分の鞄を拾って、帰ることにした。



***




あずみが校門を出た時だった。


フェンスにもたれかかっている史哉と出くわした。


彼はあずみを見つけて微笑むと、フェンスから体を離して近づいてくる。


誰かを待っていたのだろうか。
副島 史哉
副島 史哉
一緒に帰らない?
保坂 あずみ
保坂 あずみ
…….........

さっきの出来事のせいで、あずみはうまく笑い返せない。


間違いなく、史哉はあずみを待っていた。


初めて一緒に帰った日は、あずみから声をかけたのに、今日は逆だ。
保坂 あずみ
保坂 あずみ
(こんなとこ、仁菜ちゃんに見られたら……でも断っても、帰る方向同じだし)

周囲を気にしながらも、あずみはぎこちなく頷いて、史哉と一緒に帰ることにした。
保坂 あずみ
保坂 あずみ
……さっき、仁菜ちゃんが通らなかった?
副島 史哉
副島 史哉
うん、挨拶したよ。
そっか、ダンス部の後輩だっけ?
保坂 あずみ
保坂 あずみ
そう。
ついでに言うと、副島くんがデートした相手が仁菜ちゃんってことも、知ってる
副島 史哉
副島 史哉
え、そうなの?

いろいろと心苦しかったが、昨日のデートについて、あずみは思い切って聞いてみることにした。
保坂 あずみ
保坂 あずみ
昨日、どうだった……の?
副島 史哉
副島 史哉
楽しかったよ。
テーマパークに行ったんだ。
でも、すごく緊張した

史哉は苦笑いを浮かべている。


無理に自分を飾ろうとしたせいで、楽しかったが途中で疲れてしまったらしい。
副島 史哉
副島 史哉
保坂さんと服を買いに出かけたときは、全然緊張しなかったし、むしろ楽しかったのに。
なんでだろ?
保坂 あずみ
保坂 あずみ
ねえ……それ、仁菜ちゃんに言った?
副島 史哉
副島 史哉
うん。
え、何かまずかったかな?

あずみはため息をついて、頭を抱えた。


史哉は、女心がちっとも分かっていない。
保坂 あずみ
保坂 あずみ
好きな人が他の女の子の話をするのは、すごく嫌なことなの。
逆に自分がそうされたらどうかって、想像してみて?

恋愛に疎そうな史哉に対し、あずみは諭すように言う。


あずみも恋愛経験はゼロだが、史哉よりはマシだ。


史哉はぽかんとしたが、自分に置き換えて考えてみたようで、眉根を寄せ始めた。
副島 史哉
副島 史哉
ほんとだ……うわ、すっごく嫌だ
保坂 あずみ
保坂 あずみ
でしょ?
すぐに仁菜ちゃんの誤解を解いてほしいの。
副島くんと私が親しいと思い込んでるから

そう言って、あずみは史哉にお願いした。


このままでは、部活にも支障が出てしまうし、以前の友好な関係を取り戻したい。


それなのに、史哉は真顔で首を横に振った。

【最終話につづく】

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