約束の日曜日。
あずみは史哉と駅で待ち合わせをしている。
家が近いのだからすぐ合流できそうなものだが、家族に見られてしまうと気恥ずかしいのだ。
約束の時間よりも早く着いたあずみは、環状のベンチに腰かけて、スマートフォンを操作しながら史哉を待った。
史哉にはきっと、カジュアルで清楚な服装が似合うだろう。
インターネットで、いくつかコーディネート例を検索しつつ、頭の中で着替えさせていく。
それほど待っていないので、あずみは微笑みながら顔を上げたのだが――。
史哉が来ているのは、謎の黄色いキャラクターが胸に大きく描かれたTシャツと、サイズの合っていないだぼだぼのジーンズ。
あずみは絶句した。
あずみの表情から言いたいことは察した史哉は、苦い笑みを浮かべた。
あずみも曖昧に笑う。
ストレートな言葉に軽くショックを受けながらも、史哉は予算の上限を話してくれた。
あずみは数秒考えた末、自身もよく訪れている古着屋へと史哉を連れていくことにした。
***
試着を嫌がる史哉を説き伏せ、あずみは次なる候補を探す。
古着屋ならば、史哉の予算でも全身のコーディネートが可能だろう。
選ぶのがだんだんと楽しくなってきたあずみだったが、ふと、史哉に告白してきた女の子のことが気になり始めた。
あずみの知る限り、史哉は自ら女の子に話しかけていく性格ではなく、クラスでも目立たずおとなしい。
それは幼少期から変わらない。
どういった経緯で告白されたのだろうか。
史哉によると、女の子と知り合ったのは、彼が2年生に進級して間もない頃。
夜道で酔っ払い数人に絡まれている女の子を見つけた史哉は、助けに入ったそうだ。
史哉は、掴みかかってきた酔っ払いの男を一人、軽々と投げ飛ばした。
それをきっかけにして、女の子との親交ができたそうだ。
史哉にそんな度胸があるとは思っていなかったあずみは、目を輝かせて感動した。
そういうことなら、女の子が史哉に惚れる理由として十分だ。
あずみは、史哉のことを心底見直すと同時に、絶対にいい服を選んでやろうと張り切った。
【第4話につづく】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!