第3話

告白された理由
2,811
2019/02/17 09:04

約束の日曜日。


あずみは史哉と駅で待ち合わせをしている。


家が近いのだからすぐ合流できそうなものだが、家族に見られてしまうと気恥ずかしいのだ。
保坂 あずみ
保坂 あずみ
(さて、どんな格好で来るかな……)

約束の時間よりも早く着いたあずみは、環状かんじょうのベンチに腰かけて、スマートフォンを操作しながら史哉を待った。


史哉にはきっと、カジュアルで清楚な服装が似合うだろう。


インターネットで、いくつかコーディネート例を検索しつつ、頭の中で着替えさせていく。
副島 史哉
副島 史哉
保坂さん、ごめん!
お待たせ
保坂 あずみ
保坂 あずみ
ううん、私も今来たとこっ……

それほど待っていないので、あずみは微笑みながら顔を上げたのだが――。
保坂 あずみ
保坂 あずみ
(こ、これはさすがにダサい……!)

史哉が来ているのは、謎の黄色いキャラクターが胸に大きく描かれたTシャツと、サイズの合っていないだぼだぼのジーンズ。


あずみは絶句した。
保坂 あずみ
保坂 あずみ
(服を買いに行くってことにしておいて、よかったわね……)

あずみの表情から言いたいことは察した史哉は、苦い笑みを浮かべた。


あずみも曖昧あいまいに笑う。
副島 史哉
副島 史哉
あ……やっぱり、変だよね。
これ、母親が買ってきたやつだから
保坂 あずみ
保坂 あずみ
正直に言うと……うん、かなりヤバい
副島 史哉
副島 史哉
うっ……
保坂 あずみ
保坂 あずみ
予算はどれくらいあるの?

ストレートな言葉に軽くショックを受けながらも、史哉は予算の上限を話してくれた。


あずみは数秒考えた末、自身もよく訪れている古着屋へと史哉を連れていくことにした。


***

保坂 あずみ
保坂 あずみ
あ、これもいいかも。
ちょっと試着してみよっか
副島 史哉
副島 史哉
試着?
えー……
保坂 あずみ
保坂 あずみ
実際に着てみないと、サイズとかいろいろ、似合わないことがあるの。
我慢しなさい
副島 史哉
副島 史哉
はい

試着を嫌がる史哉をき伏せ、あずみは次なる候補を探す。


古着屋ならば、史哉の予算でも全身のコーディネートが可能だろう。


選ぶのがだんだんと楽しくなってきたあずみだったが、ふと、史哉に告白してきた女の子のことが気になり始めた。


あずみの知る限り、史哉は自ら女の子に話しかけていく性格ではなく、クラスでも目立たずおとなしい。


それは幼少期から変わらない。


どういった経緯で告白されたのだろうか。
保坂 あずみ
保坂 あずみ
ねえ、相手の子って、副島くんとどういう関わりがあったの?
副島 史哉
副島 史哉
うーん、ちょっとしたことだったんだけど……

史哉によると、女の子と知り合ったのは、彼が2年生に進級して間もない頃。


夜道で酔っ払い数人に絡まれている女の子を見つけた史哉は、助けに入ったそうだ。
保坂 あずみ
保坂 あずみ
えっ……超格好いいじゃん!
そういえば体格もいいし、武道か何かやってるの?
副島 史哉
副島 史哉
うん。
昔から合気道を習ってる。
護身術なら一通りできるよ

史哉は、掴みかかってきた酔っ払いの男を一人、軽々と投げ飛ばした。


それをきっかけにして、女の子との親交ができたそうだ。


史哉にそんな度胸があるとは思っていなかったあずみは、目を輝かせて感動した。
保坂 あずみ
保坂 あずみ
すごい。
すごいよ、副島くん!
なんでそれを早く言わないの!
副島 史哉
副島 史哉
えっ……あ、ありがとう……

そういうことなら、女の子が史哉に惚れる理由として十分だ。


あずみは、史哉のことを心底見直すと同時に、絶対にいい服を選んでやろうと張り切った。


【第4話につづく】

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