翌日は月曜日。
週の始まりということもあり、あずみが登校してくると、校門のところで教師たちによる服装検査が行われていた。
あずみの髪は、明るい茶色のロングストレート。
制服の襟元は緩く、スカートは規則で定められた丈より短い。
ファンデーション、リップグロスとマスカラにこだわった化粧もばっちり。
爪にもピンク色のマニキュアを塗っており、全てにおいて明らかに違反している。
声をかけてきた女性教師は軽く咳ばらいをした後、あずみの髪を指さした。
口ではそう言うが、もちろん、あずみにそのつもりはない。
笑顔で頭を下げて通過すると、厳しく注意されている他の女子生徒たちが、不満の声を漏らした。
あずみが定期試験でも部活でも結果を出しているからか、教師たちも強く言い出せないでいるのだ。
あずみと同じく派手な容姿の女友達は、1週間以内に直さなければ補習を課すと脅されたらしい。
あずみが彼女の肩をなだめるように叩いていると、窓の外、校門の方向がざわつき始めた。
クラスメイトたちが窓際に向かい、あずみもそれに混ざる。
騒ぎの発生源を確認すると、あの史哉が、教師たち数人に校門で引き留められていた。
微かだが、「学生証」「本人」などといった単語が聞き取れる。
当の史哉は困ったように、鞄から学生証を取り出して、教師の1人に手渡している。
友達の発言で、あずみは確信した。
史哉のあまりの変わりように、誰も同一人物だと気付かないのだ。
かわいそうなことに、史哉は下の名前すらきちんと把握されていなかった。
それだけ、みんな彼に関心がなかったのだ。
つい先日まで、あずみもその1人だったが。
制服姿とはいえ、髪型だけであんなにも史哉の印象が変わり、イケメンだと言われ――それを手伝ったことが、あずみは嬉しかった。
あんぐりと口を開けるクラスメイト達の前で、あずみはけらけらと笑う。
その後、先生たちに無事認められ、クラスに到着した史哉を、男女問わずみんなが取り巻いていった。
突然の変身には何か理由があるはずだと、史哉は質問攻めにあい、困惑している。
これほどの騒ぎになるとは、思ってもいなかったのだろう。
史哉はあずみを見つけ、視線で助けを求めてくるが、あずみはただ笑うだけだ。
「みんなにモテて、よかったね」と、あずみが声を出さずに口の動きだけで伝えると、史哉は嬉しいような、悲しいような、複雑な表情を見せた。
先ほどまでは嬉しかったのに、時間が経つにつれて、あずみは昨夜と同じように、胸の中にモヤモヤとしたものを感じ始めていた。
【第6話につづく】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。