第5話

イメチェン大成功!
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2019/03/03 09:09

翌日は月曜日。


週の始まりということもあり、あずみが登校してくると、校門のところで教師たちによる服装検査が行われていた。
女性教師
おはようございます
保坂 あずみ
保坂 あずみ
……おはようございます

あずみの髪は、明るい茶色のロングストレート。


制服のえり元は緩く、スカートは規則で定められた丈より短い。


ファンデーション、リップグロスとマスカラにこだわった化粧メイクもばっちり。


爪にもピンク色のマニキュアを塗っており、全てにおいて明らかに違反している。

声をかけてきた女性教師は軽く咳ばらいをした後、あずみの髪を指さした。
女性教師
髪色が明るすぎます。
暗くしてきなさい
保坂 あずみ
保坂 あずみ
はい、分かりましたー
口ではそう言うが、もちろん、あずみにそのつもりはない。


笑顔で頭を下げて通過すると、厳しく注意されている他の女子生徒たちが、不満の声を漏らした。


あずみが定期試験でも部活でも結果を出しているからか、教師たちも強く言い出せないでいるのだ。

保坂 あずみ
保坂 あずみ
おはよー
女子クラスメイト
あずみ、おはよう。
服装検査、またパスだったの?
保坂 あずみ
保坂 あずみ
うん。
髪色を言われただけ
女子クラスメイト
ええ、ずるいー!

あずみと同じく派手な容姿の女友達は、1週間以内に直さなければ補習を課すとおどされたらしい。


あずみが彼女の肩をなだめるように叩いていると、窓の外、校門の方向がざわつき始めた。

女子クラスメイト
どうしたんだろ?
保坂 あずみ
保坂 あずみ
なになに?

クラスメイトたちが窓際に向かい、あずみもそれに混ざる。


騒ぎの発生源を確認すると、あの史哉が、教師たち数人に校門で引き留められていた。


かすかだが、「学生証」「本人」などといった単語が聞き取れる。

保坂 あずみ
保坂 あずみ
(まさか……)

当の史哉は困ったように、鞄から学生証を取り出して、教師の1人に手渡している。
女子クラスメイト
ねえ、あんなイケメン、うちの学校にいたっけ?

友達の発言で、あずみは確信した。


史哉のあまりの変わりように、誰も同一人物だと気付かないのだ。

保坂 あずみ
保坂 あずみ
あれ、副島くんだよ
女子クラスメイト
……は? 副島って、うちのクラスの副島ふみ、なんたら?
保坂 あずみ
保坂 あずみ
うん、副島史哉
女子クラスメイト
うそ!?

かわいそうなことに、史哉は下の名前すらきちんと把握されていなかった。


それだけ、みんな彼に関心がなかったのだ。


つい先日まで、あずみもその1人だったが。


制服姿とはいえ、髪型だけであんなにも史哉の印象が変わり、イケメンだと言われ――それを手伝ったことが、あずみは嬉しかった。


あんぐりと口を開けるクラスメイト達の前で、あずみはけらけらと笑う。

その後、先生たちに無事認められ、クラスに到着した史哉を、男女問わずみんなが取り巻いていった。
女子クラスメイト
ねえ、副島くん!
急にイメチェンして、どうしたの?
男子クラスメイト
お前、彼女でもできたのか?
女子クラスメイト
絶対、こっちの方がいいと思う!
副島 史哉
副島 史哉
えっ!?
なに、どうしたの……

突然の変身には何か理由があるはずだと、史哉は質問攻めにあい、困惑している。


これほどの騒ぎになるとは、思ってもいなかったのだろう。


史哉はあずみを見つけ、視線で助けを求めてくるが、あずみはただ笑うだけだ。

「みんなにモテて、よかったね」と、あずみが声を出さずに口の動きだけで伝えると、史哉は嬉しいような、悲しいような、複雑な表情を見せた。
保坂 あずみ
保坂 あずみ
(みんな、急に手のひら返しちゃって……)

先ほどまでは嬉しかったのに、時間が経つにつれて、あずみは昨夜と同じように、胸の中にモヤモヤとしたものを感じ始めていた。

【第6話につづく】

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