唐突な言葉にあずみはぽかんとしていたが、きまりの悪そうな史哉の顔を見て、はっと我に返る。
内容が分からなければ、引き受けるかどうかも決められない。
まずは、史哉の話を聞いてみることにした。
あずみは生まれてこのかた、異性に告白されたことも、告白したこともない。
つまり、交際経験はゼロ。
友達にはカップルも数組いるが、自分にもいずれ縁が巡ってくるだろうと、それほど深く考えていなかった。
しかし、史哉にもそういう相手がいるということを知って、焦りが生まれる。
史哉に告白してきたのは1年生の女子で、「返事をもらう前に、自分を知ってもらうためにも、一度でいいからデートをしてほしい」と頼まれたらしい。
だが、史哉自身はデートの経験がなく、女の子との交際もしたことがないとのこと。
どんな服を着ていけばいいのかも分からず、困っているのだという。
あずみの問いに、史哉は首を横に振った。
少しでも相手によく見せたいという思いは、予想以上に強いらしい。
あずみは史哉の頭からつま先まで、じっくり観察した。
平均より身長もあるようだし、体格は程よく引き締まっている。
目元までかかった髪以外、素材は悪くない。
一見奥手で地味そうな史哉がおしゃれに変身したら、なんだかおもしろそうだ。
その理由だけで、あずみは頼みを引き受けることにした。
史哉がほっとしたように笑う。
滅多に見ることのない――いや、おそらく初めて見る史哉の表情に、あずみは一瞬ドキッとした。
一体、どうしたことか。
2人は話し合いの末、次の日曜日に出掛ける約束をした。
それはよいのだが、あずみには1つだけ疑問が残る。
しかし史哉は安心感からか、頬を緩めている。
デートだとは思ってなさそうなので、あずみは黙っておくことにした。
【第3話につづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。