その日の夕方。
部活も終わり、あずみが着替えを済ませた頃。
部の後輩である、1年の黒澤 仁菜が、あずみに話しかけてきた。
仁菜は、あずみとは違い、清純で何事にも真面目なタイプ。
ダンスも上手で、あずみに負けないほどだ。
1年生ではあるものの、次の大会の出場メンバーに選ばれる可能性が高い。
見た目は正反対であるものの、ダンスが好きという共通点もあって、割と友好的な関係を築けている。
悩みの相談かと思い、あずみが仁菜に向かい合うと、仁菜はもじもじとしながら口を開いた。
仁菜の質問で、あずみはピンときた。
史哉に告白した1年生の女子とは、仁菜なのではないか。
それなら、日曜日に一緒に出掛けたなどとは口が裂けても言えない。
あずみは言葉を詰まらせ、ごまかすようにぽかんとして見せた。
仁菜は納得いっていないようではあるが、あずみはすかさず、自分の質問をすることにした。
仁菜は恥ずかしそうにしながら、史哉と知り合うことになった顛末を話してくれた。
彼らに腕を引っ張られていたところ、道場帰りの史哉が割って入り、助けてくれたそうだ。
史哉が1人を軽々と投げ飛ばすと、他の男たちもすぐに逃げていった。
それで仁菜は、史哉に一目惚れしてしまったらしい。
史哉の言っていたことと合致する。
間違いなく、彼女が史哉に告白した本人だ。
あずみは初めて知ったふりをした。
嘘をつくというのは、心苦しいものだ。
その代わり、今あずみにできるのは、2人を応援してあげること。
仁菜はにっこりとしてきれいにお辞儀をし、帰っていく。
その背中を見ながら、あずみはまた、複雑な心境を持て余していた。
【第7話につづく】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!