第6話

史哉に告白した女の子
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2019/03/10 09:31

その日の夕方。


部活も終わり、あずみが着替えを済ませた頃。
黒澤 仁菜
黒澤 仁菜
あずみ先輩。
ちょっと、いいですか?
保坂 あずみ
保坂 あずみ
ん? どうしたの?

部の後輩である、1年の黒澤くろさわ 仁菜になが、あずみに話しかけてきた。


仁菜は、あずみとは違い、清純で何事にも真面目なタイプ。


ダンスも上手で、あずみに負けないほどだ。


1年生ではあるものの、次の大会の出場メンバーに選ばれる可能性が高い。


見た目は正反対であるものの、ダンスが好きという共通点もあって、割と友好的な関係を築けている。


悩みの相談かと思い、あずみが仁菜に向かい合うと、仁菜はもじもじとしながら口を開いた。
黒澤 仁菜
黒澤 仁菜
あの……先輩のクラスに、副島先輩っていますよね?
保坂 あずみ
保坂 あずみ
うん、いるよ
黒澤 仁菜
黒澤 仁菜
今日、副島先輩が急にイメチェンしたって聞いたんですけど、何か理由を知っていませんか?
保坂 あずみ
保坂 あずみ
え? あー……髪、切ってたもんね

仁菜の質問で、あずみはピンときた。


史哉に告白した1年生の女子とは、仁菜なのではないか。


それなら、日曜日に一緒に出掛けたなどとは口が裂けても言えない。


あずみは言葉を詰まらせ、ごまかすようにぽかんとして見せた。
保坂 あずみ
保坂 あずみ
さあ?
読書好きみたいだし、本の中の主人公に憧れて、似せてみようとか思ったんじゃない?
黒澤 仁菜
黒澤 仁菜
本の中の人物……ですか。
本当にそうなんでしょうか?

仁菜は納得いっていないようではあるが、あずみはすかさず、自分の質問をすることにした。
保坂 あずみ
保坂 あずみ
仁菜ちゃんは、副島くんと知り合いなの?
黒澤 仁菜
黒澤 仁菜
はい。
4月に、アルバイトの面接から帰ってる途中で、私が酔っ払いのお兄さんたちに絡まれちゃって……

仁菜は恥ずかしそうにしながら、史哉と知り合うことになった顛末てんまつを話してくれた。


彼らに腕を引っ張られていたところ、道場帰りの史哉が割って入り、助けてくれたそうだ。


史哉が1人を軽々と投げ飛ばすと、他の男たちもすぐに逃げていった。


それで仁菜は、史哉に一目惚れしてしまったらしい。


史哉の言っていたことと合致がっちする。


間違いなく、彼女が史哉に告白した本人だ。
黒澤 仁菜
黒澤 仁菜
それで、思い切って告白したら、まずはデートをしてくれることになって。
すっごく楽しみなんです!
保坂 あずみ
保坂 あずみ
へええ、そうなんだ!

あずみは初めて知ったふりをした。


嘘をつくというのは、心苦しいものだ。


その代わり、今あずみにできるのは、2人を応援してあげること。
保坂 あずみ
保坂 あずみ
副島くんのことは、私もあんまり詳しくは知らないけど……話を聞く限り、いいやつだと思うよ。
うまくいくといいね
黒澤 仁菜
黒澤 仁菜
はい! ありがとうございます!

仁菜はにっこりとしてきれいにお辞儀をし、帰っていく。


その背中を見ながら、あずみはまた、複雑な心境を持て余していた。

【第7話につづく】

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