空が好きだ。
ざわざわと騒がしい教室とは違って、とめどないのに静かな空。一瞬たりとも同じ姿をすることは無いのに、どうしてか安心する。
「ねぇ、貴方は何が好き?」
そんな風にぼぅっとしていたら、前の席の女子に話しかけられた。まったく聞いていなかったので聞き返すと、もう一人の女子が答える。
「海と山。どっちが好き?って聞いたの」
二人の手元には『すぐわかる!2択☆DE☆心理テスト』という胡散臭さしかない本があった。恐らくその質問の一つなのだろう。
「……空、かな」
それをわかっていながら、あえて的外れな答えをする。これが友達の少ない原因なのだろう。すると、なにがおかしいのか二人はゲラゲラと笑い出した。
お互いの肩を叩きながら、『だから言ったじゃん、ね?』『ヤバいウケるんだけど』などと騒いでいる。何故笑われているかわからず、二人を交互に見るばかり。
その様子に気が付いたのか、一人がその本を見せてきた。笑いすぎて言葉で説明も出来ないらしい。訝しみながら本を覗き込むと、そこにはこう書かれていた。
『二択以外のことを選んだ君は、ちょっとマイペース?芸術の才能があるかも!』
確かにそうかもしれないし、得意科目は美術だけどさ。これであれだけ笑うのは、ちょっとひどくないかな。
「ごめんね、ミヤタツ。つい笑っちゃった」
目尻に涙をためながら、一人の女子がヘラヘラと謝る。全く誠意を感じられないその笑顔に、不覚にもほだされかける。
「いいよ、べつに」
それを隠そうとそっけなく答えた。かえって拗ねているような口調になってしまったが、二人はもうこちらを見ていない。
気にしすぎたな、と僕はまた空を見た。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。