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第1話

一話
60
2020/07/24 02:33
 空が好きだ。

 ざわざわと騒がしい教室とは違って、とめどないのに静かな空。一瞬たりとも同じ姿をすることは無いのに、どうしてか安心する。


「ねぇ、貴方は何が好き?」


 そんな風にぼぅっとしていたら、前の席の女子に話しかけられた。まったく聞いていなかったので聞き返すと、もう一人の女子が答える。


「海と山。どっちが好き?って聞いたの」


 二人の手元には『すぐわかる!2択☆DE☆心理テスト』という胡散臭さしかない本があった。恐らくその質問の一つなのだろう。


「……空、かな」


 それをわかっていながら、あえて的外れな答えをする。これが友達の少ない原因なのだろう。すると、なにがおかしいのか二人はゲラゲラと笑い出した。

 お互いの肩を叩きながら、『だから言ったじゃん、ね?』『ヤバいウケるんだけど』などと騒いでいる。何故笑われているかわからず、二人を交互に見るばかり。

 その様子に気が付いたのか、一人がその本を見せてきた。笑いすぎて言葉で説明も出来ないらしい。訝しみながら本を覗き込むと、そこにはこう書かれていた。


『二択以外のことを選んだ君は、ちょっとマイペース?芸術の才能があるかも!』


 確かにそうかもしれないし、得意科目は美術だけどさ。これであれだけ笑うのは、ちょっとひどくないかな。


「ごめんね、ミヤタツ。つい笑っちゃった」


 目尻に涙をためながら、一人の女子がヘラヘラと謝る。全く誠意を感じられないその笑顔に、不覚にもほだされかける。


「いいよ、べつに」


 それを隠そうとそっけなく答えた。かえって拗ねているような口調になってしまったが、二人はもうこちらを見ていない。

 気にしすぎたな、と僕はまた空を見た。

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