第16話

十三話
24
2020/07/24 02:34
「……うわ、ド緊張してる」


 僕を見ていたミホが、驚いたように言う。仕方ないだろう、舞台に上がるなんて初めてなんだから。

 舞台裏なので抗議の声も出せず、ミホをキッと睨む。器用に小さくケラケラと笑い、僕の背中をポンポンと叩いた。


「だいじょぶよ、私の演技を見てなさい。夢中になり過ぎない程度にね」

「………わかったよ」


 『めちゃ素直じゃん』とまた笑う。その笑顔で緊張がほぐれるのだから、僕は本当に単純な人間だな、なんて心の中で笑った。

 実を言うと、『僕』と『恵』の出番はそれ程多くない。見せ場と言えばラストシーンくらいで、主役だなんて思えないほどだ。

 だが、それがこの舞台のミソでもある。

 当て馬だと思っていた『僕』と『恵』のラストシーン。それを見ただけで、「この二人の物語なんだ」と思わせる。

 ある意味では、挑戦的な演目なのだ。

 そんなことを考えているうちに、出番がどんどんと近づいてくる。舞台上では、『翔』と『空』が結ばれるシーンが演じられていた。


「……よし、そろそろ行こう」

「うん、頑張る」


 小学生のような返事だな、なんて自嘲しながら。それでも、それが本音だった。

 僕がこの役をやれたのは、相手がミホだったからだ。『僕』と僕は、あまりにも似ている。

 なよなよしい性格が災いして、本人に想いを告げることが出来ず。

 想い人が失恋をしていても、慰めることすら出来ず。

 それでも、最後の勇気を振り絞って、自分の気持ちを伝えるのだ。


 『幸せになろう』


 そうだ、彼女の想い人は僕じゃ無くていい。

 それが本心かはわからない。もしかしたら、強がっているだけなのかも知れない。

 自分に嘘をついたって、いずれ寂しくなるだけだ。それでも、そうだとしても。


 僕は、君に笑って欲しいよ。


 スポットライトの当たる場所へ、一歩、踏み出した。

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