「お、来たなミヤタツよ」
「何のポジションだよ、それ」
今日できることを全て終わらせ、約束通り昇降口に行くと、先にミホが待っていた。ニヤリとニヒルに笑うため、そんなツッコミをしてしまった。
ケラケラと言う笑い声は、騒がしすぎず、大人しすぎず。いろいろな意味でミホらしい。
「読み合わせ、どこでやるの?」
「んー、駅の近くに公園あるじゃん?あそこにしよっか」
確かにあったな、と思いだす。公園なんて中学生になってから言った覚えがない。どこか楽しみにしながら公園に向かう。
ふと、ミホの手元に目が行った。今回の舞台の台本が握られている。何回もページをめくった痕があり、ミホの真剣さが伝わって来た。
特に何を話すでもなく、成り行きのように公園に着く。子供も誰もいない公園は、こんなにも静かなのか。ミホがベンチにカバンを置き、気合の入った表情になる。
「これ、台本ね。ラストだけで良いから読んどいて」
パラパラとページをめくる。これは主人公である『恵』、恵の妹の『空』、恵の片恋相手の『翔』、恵に思いを寄せる、名前の無い『僕』の四人のみの舞台だ。
実は『翔』は『空』に恋をしていて、それを知った恵は二人に自分の思いは嘘だったと偽る。ラストは『恵』と『僕』が語り合い、前を向くシーンで終わる。
純粋な思いと優しさ。そこから生まれた嘘が、二人の男女をつなぐ物語である。
と、そこまで理解した所でミホから指示が飛ぶ。
「よし、じゃあやるから。そこで見てて!」
指定されたベンチに座り、制服を整えるミホを見る。いつもとは違った雰囲気に、少しだけドキリとした。ミホはゆっくりと深呼吸すると、こちらを向いて目を閉じる。
一瞬、自分がいなくなったような錯覚がした。目の前の彼女だけが、この世に存在する全てのように思える。そして、それを見ている自分は幸福である、とも。
そんな僕の想いも他所に、ミホはゆっくりと口を開いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。